昨日日光霧降高原の日光キスゲの満開を見てきた。8月のお盆に帰省できない予定のワイフが、新暦のお盆に鬼怒川温泉に近い実家に戻り、ご先祖にお参りし兄弟姉妹と交歓の後、3時過ぎに実家を発った。いやこの時期にここまで車で来た以上は少々帰宅が遅くなっても霧降高原の日光キスゲを見て帰ろうと私が言い始め、日光東照宮の裏から別荘地帯をどんどん登り、文字通り霧が流れる霧降高原有料道路で標高を稼いだ。日光キスゲは毎年八ヶ岳霧ケ峰で見ているが、名前の由来の日光霧降高原では見たことがなかったからだ。私は霧降高原そのものが初めてだ。地元育ちのワイフはさすがに何度も来ているが日光キスゲの花の季節には来たことはないという。日光キスゲの名所二箇所が似た地名を持つのは面白い。
霧降高原スキー場まで上り最初の駐車場で係員に尋ねると、あと1分後4時にリフトは止まるので上の駐車場まで車で上がって下さいと言われた。4時までと看板に書いてあった上のリフトは4時10分でもまだ動いていた。上った人が花を見終わって下りてくるまでリフトは止められないから、これから上る人も止められないという面白い現象だったと後で理解した。何時何分まで見物していてもいいですかと尋ねたら、「適当に見てきて下さい」と言われた。田舎のアナログ世界は暖かいが不安でもある。
名の通り時々押し寄せる霧と雨粒の中、標高1,300-1,600米のゲレンデとリフト道の濃い緑に、ユリ型で橙黄色の日光キスゲの花が敷き詰められていた。若芽や花芽を鹿が食べてしまうので近年花が少なかったが、鹿の部分駆除の方針が出た今年は食べられることが少なく、花が多いと聞いた。芽も花もぬめりのある甘味で人間にも美味しいと聞くが私は食べたことはない。採取したら叱られるし、自宅の数少ない花はもったいないなくて。花が咲いた景色は霧ケ峰と同様だった。日光キスゲの間に紫のギボウシ、ピンクのショウマ、赤いシモツケソウなどが彩りを添えていた。
手早く見物し写真を撮って、ビリにならぬようリフトで下った。数km下った「チロリン村」で日光キスゲの苗を買った。日光キスゲは種を蒔いても大きくなるまで数年間は花が咲かない。霧ケ峰の日光キスゲの花茎に実った種をとって育て八ヶ岳の敷地に植えたのは7-8年前だったが、周りの木が伸びて陰になったせいか今年やっと花が咲いた。それでウィスキー同様、苗の値段も年数で違う。勢のいい10年株を買った。勿論野生の株を採っては叱られるが、この店は野生種から採取した種から畑で育てて売っている。以前日光戦場ヶ原で買った株は八ヶ岳で毎年咲いているが、栽培交配種の赤や黄の百花繚乱の中で一番野生原種に近いものを選んで買ってきたので、氏素性がやや怪しい。その点チロリン村のは純正種と見てまた買ってしまった次第。5時過ぎて驟雨の中を宇都宮・日光自動車道を下れば、ここの中央分離帯にも日光キスゲの花が続いていた。
日光黄菅または日光キスゲはユリ科だが掘ってみても球根はない。日光キスゲを含むユリ科キスゲ属は、英語でDay LilyまたはDaylilyと言い、学名Hemerocallisもπμερα=Day、καλλοc=Beautyだ。「一日だけの美」とは物悲しい名だ。キスゲの花は1日で萎れてしまうが、一本の花茎に次々とつぼみが開き1週間ほど咲き続ける。Calistoは美しい妖精で、全能の神Zeusが心を奪われたため妻のHeraによって熊にされてしまい、哀れんだZeusが星の大熊座にしたという。夕方咲いて日が出ると萎れるユウスゲは黄色い。昼間咲く橙黄色の花が日光キスゲで、ゼンテイカとも呼ばれる。高山に咲くが北海道では低地にも咲くという。里に咲く橙黄色から赤色の花は、八重咲きがヤブカンゾウ、一重がノカンゾウだ。
日本ではユウスゲ・日光キスゲは高山でしか育たないし、カンゾウは野の花と認識され育てる人はいない。但し八王子の自宅の庭ではワイフがノカンゾウを育てている。Californiaを旅行すると、日光キスゲにそっくりの多分ノカンゾウの一種が園芸種として花壇でよく見かける。キスゲ属は元々東アジア原産だが、16-17世紀に欧州に伝わったという。
次の週末には、買った苗を八ヶ岳に植え、霧ケ峰の日光キスゲを見て心の洗濯をして来ようか。 以上