今年のNobel医学生理学賞はCambridge大Gurdon教授と京大山中教授に授与された。受精直後の細胞は腸にも皮膚にも髪にもなり得る万能細胞だが、一旦特定化・分化してしまうと皮膚細胞は皮膚にしかならない。分化後の細胞をリセットして万能細胞に戻し、将来は再生医療などに使うという研究だ。Gurdon教授は、ES細胞=胚性幹細胞=Embryonic Stem Cell=多能性幹細胞=Pluripotent Stem Cell=分化後の細胞核で受精卵の細胞核を置換した万能細胞、を発見した。山中教授のは受精卵を使わず、iPS細胞=人工(誘導)多能性幹細胞=Induced Pluripotent Stem Cell=分化後の細胞核に4種の遺伝子を注入するとリセットされて出来る万能細胞だ。
Sir B. Gurdonは1933年英国生まれ。Eaton校ではビリの成績で、先生は「科学者を目指しているがこの成績ではRidiculous」と書いた。Oxford大で動物学を専攻、Caltech, Oxford, Cambridgeに籍を置いた。1962年に、分化後の蛙の小腸の細胞核で発生段階の蛙の卵の細胞核を入れ替えたら、その卵がCloneとして成長したという発見をした。長年の研究活動に対して1995年に勲爵位が授与されたので、Sirである。
山中伸弥氏は1962年東大阪市生まれ。大阪教育大附属高から神戸大医学部で柔道とラグビーに注力、国立大阪病院で整形外科の研修医になったが、不器用で指導医から「邪魔ナカ」と呼ばれ、研究職を目指した。大阪市立大大学院で博士となり、公募でUC San Francisco Gladstone研でiPS細胞研究に接した。帰国後大阪市立大助手から奈良先端科学技術大学院の公募でiPS細胞の研究職となり、2003年に補助金を得てiPS細胞の開発に成功、2004年に京大教授に招聘された。成人の皮膚などの体細胞の核に4種の遺伝子「Yamanaka Facors」を注入すると万能細胞にリセットされることを2006年に発表して世界を驚かせた。今年3月の京都マラソンで、山中教授の完走を条件として寄付を呼び掛け10百万円を集めたともいう。
今年の物理学賞は私には難しかった。量子物理的に個別粒子を測定または制御できる実験に対し、1944年生まれの2人に授与された。仏人Serge Haroche教授はロシアのユダヤ人の家系で、フランス大College de Franceと高等師範学校Ecole Normale Superieure(高等教員養成で開校したが現在は教員に拘らぬエリート校でNobel賞受賞者が今度で13人目)の教授を務める。米人David J. WinelandはCalifornia生まれでBerkley卒業、Harvardで博士号を取った。現在はNational Institute of Standards and Technology (NIST)とColorado大に籍を置く。
Haroche教授は、絶対温度0.8°Kの超電導物質凹面鏡2個を間隔2.7cmで置いた空洞CavityにMicrowaveの光子Photonを閉じ込めた。同調係数Qが4x10^10と高いため光子は130mSも消滅しない。光子と垂直にRb=Rubidium原子を発射し、空洞通過の前後でその原子の状態を計測する。この装置で空洞内の光子の計数、状態の測定、状態の操作などが出来るという。
Wineland教授はこれと相対の関係で、高真空中の静電界+特定高周波の電界でBa=Bariumイオンを1個捉えた。イオンは励起状態と特定周波数での振動モードでエネルギー状態が変わる。このイオンにレーザ光を当てて、イオンの状態を観測または制御できる装置を作った。この原理で超高速の量子Computerや超精密な光子時計が出来るという。
何時も下らぬ印象が拭えない経済学賞は、Princeton出身でUCLAのLloyd S. Shapley教授と、Stanford出身でHarvardのAlvin E. Roth教授のStable Matchingの理論と実践に与えられた。1960年代のGale-Shapley理論は同数の男女の集団見合いで例示される。女が好きな男に投票する。男は女を1人選び他を退ける。残った女は第2回、第3回と投票を繰返し全員のMatchingを決める。決定した相手を解消しても、もっと相思相愛になれる相手は無いという意味で、このMatchingはStableだとする。但しStable Matchingは複数有り得て、細部では女が投票すれば女の希望がより反映され有利となる。これらを数学的に証明した。1980年代にRoth教授は、この理論を改良しつつ、新任医師と病院、New York市立高校と入学希望者、移植腎臓と患者などの組合せに応用し、成果を上げたという。 以上