今年のNobel物理学賞は、またLaser=Light Amplification by Stimulated Emission of Radiationの応用技術に授与された。「また」とは、Laserはその発明以来数件のNobel賞受賞者を生んでいるからだ。
半導体Laserが光Diskや講演の際の画面Pointerに平易に使われていて、Laserは今や身近な存在だ。しかし私共が若年社員だった1960年代には最先端の技術で、同期で会社の総合研究所に配属された仲間たちは、Laserの研究に従事していることを誇りとしていた。
Laserは名の通り光を発する。その前段階では同じ原理でMicrowaveを発するMaserがあった。1960年代に私が見たLaserは、怪しくピンクに光る1mほどのガラス管で、そのガラス管を銃身として一方に強烈なピンクの光線が瞬時に、あるいは連続的に発射されるものだった。ガラス管にはガスが入っていて、それを光線、放電、電流などで励起する。励起されたガスは、ガス固有の波長の光を発して平常状態に戻る。ガス管の長さは光の波長の整数倍で、管内に定常波ができるように両端に鏡が置かれている。定常波がガスを更に励起し、発振状態になるので、光線で励起し放電で維持した場合でも入力光線以上の光線が出力されるので光増幅器である。一方の鏡に小さな穴を空けておき、そこからLaser光が出力される。
ある種の半導体のp-n結合に電流を流すと、電子と正孔の再結合で生じるエネルギーが結晶原子を励起して光を発する。LED=Light-Emitting Diodeだ。この半導体内に共振構造を装備したのが半導体Laserだ。
今年のNobel物理学賞の半分は、原子、小粒子、Virus、細菌、小生命体などをLaser光でつまむ「光ピンセット」(2つで挟むのではない)を発明して、広範囲の物理・化学実験を可能にした功績で、史上最高齢96歳の米人Dr.Arthur Ashkimに贈られた。受賞理由は"For the optical tweezers(ピンセット) and their application to biological systems"だ。教授はColumbia大(BA)、Cornell大(PhD)の出身で、Bell研-->Lucentで光の圧力を研究した。
彗星からの放出物質は、太陽光に吹き飛ばされて太陽と反対側に尾を形成する。光子が飛んで来るのだから、光には物質を動かす圧力がある。原子などの小さな物質の場合は、光に吹き飛ばされる第1の力と、光の強い方向に吸い寄せられる第2の力が働く(なぜか私にきかないで)。周囲の空気や真空よりも物質の光屈折率は高いので、光は物質を包み抱え込む方向に屈折し引き寄せる。Laser光を凸レンズで収束すると、光は焦点に集まって強くなり、その先は末広がりになって光は弱まる。この領域では光が強い焦点に向かって物質を吸い寄せる第2の力が働く。物質の屈折率が充分高く、Laser光線が充分強い場合には、第1の力よりも重力よりも第2の力が勝って、物質はLaser光の焦点に引き込まれる。これが物質を摘まみ上げる光ピンセットになる。Ashkim氏は、当初複数のLaser光線を交わらせるなど色々工夫の挙句、上記の形で光ピンセットを実現した。
今年のNobel物理学賞の他の半分は、ピンセットとは無関係のLaser応用技術で、強くて細いLaser光パルスを生成するCPA=Chirped Pulse Amplifi-cation技術の発明者2人に授与された。Chirpは「鳥がチュンチュン鳴く」ことだが、ここでは光Pulseが鳥の鳴き声のように連続することを表す。Gerard Mourou教授は仏人だが、米Michigan大で30年以上教えて名誉教授になった。当初Ecole PolytechniqueでPhDを取得後、米Rochester大の教授になった時に、博士課程学生のMs. Donna Sticklandの博士論文の研究で上記技術を開発した。Dr. Sticklandは現在Waterloo大准教授だ。 2人の受賞理由は"For their method of generating high-intensity, ultra-short optical pulses"である。眼科手術などに実用されている他に、広範囲な応用が期待されている。
強力な光を更に光増幅器で強化すると増幅器がもたないので、CPAではまず@Pulseに含まれる周波数成分ごとの光ファイバ内での伝搬速度の差を利用して裾野の広い山形の波形に引き伸ばしてピーク強度を下げてから増幅し、その後で逆変換でPulse幅を縮め、強力で細いPulseにした。以上