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うつせみScience
2020年10月 9日
          Nobel物理学賞2020

 今年のNobel物理学賞はBlack Hole=BHの研究に与えられると発表された。数学・物理学者で英Oxford大教授のRoger Penrose卿(1931-)は、BHがEinsteinの宇宙方程式から導かれることを最初に唱えたので、"For the discovery that black hole formation is a robust prediction of the general theory of relativity"(BH形成は、一般相対性理論のしっかりした予言であることの発見⇒BHが存在すれば一般相対性理論の証明になる)に対して、物理学賞の賞金$1.1Mの1/2が贈られる。物理の本に度々出て来る有名な学者で、私の記憶にもあった。先年逝去した身障の英Cambridge大教授のStephen Hawking氏(1942-2018)とBHの共同研究をしてきたので、受賞は生存者に限るNobel賞だが、Hawking教授の受賞でもある。

 賞金1/2はBHが実際にあることを突き止めた2人の天文学者に1/4ずつ贈られる。米UCLA大Andrea Ghez(ゲズ)教授(女性1965-)と、独Max Plank研兼米UCB大教授のReinhard Genzel氏(1952-)で、"For the discovery of a supermassive compact object at the centre of our galaxy"(天の川銀河の中心に、巨大な質量のコンパクトな物体=BHがあることを発見)に対する受賞だ。なおNobel物理学賞で女性は極めて珍しく、今迄の216名の受賞者の中でCurie夫人を初め3名しか女性は居ない。4人目ということだ。

 光ですら引力から逃れられない超強力な引力の暗黒の物体の可能性を言い出したのは、1783年に英国の天文学者で僧侶のJohn Michell師と、1796-9年に仏数学者Pierre-Simon Laplace教授(理系はLaplace変換を習う)だった。即ちNewton力学に基づき、巨大な質量が極小の球体に入れば、その周辺では光子すら引き込まれることを机上計算から論じた。

 以来世界中の理論物理学者がこの問題を研究し、特異点=Singularityという1点に物体が引き込まれるというモデルを描いた。今回の受賞者Penrose教授はHawking教授と共同で、一般相対性理論の中で特異点と、それを球面膜のように包み込む、事象の地平線=Event Horizonと呼ばれる2次元領域を想定すれば、BHが説明できることを1965年と1970年に発表した。物体がBHの引力に引かれて事象の地平線を越えると、物体の空間情報が時間情報に変換され(という直感に馴染まない理論で)特異点で時間は終わるという。BHから出られないのは時間を遡れないのと等価だという。しかしBHは宇宙開闢と同じで、一般相対性理論と量子理論の統合理論で説明されるはずだと、今世界中の理論物理学者が懸命に研究している。

 2019年4月に55百万光年先の巨大銀河M87の中心のBHの写真が撮れたと報道された。ドーナツ型に輝く写真を記憶しておられる方も多かろう。ドーナツの中央の黒い丸がBHだ。ドーナツの光は、BHに引き込まれつつ高速回転するプラズマだ。プラズマの荷電粒子が、円運動で方向を曲げられると、電磁波を発射するのを、世界中の電波望遠鏡で受信して画像を再構築して色を付けたものだ。わが天の川銀河の中心のBHはM87のBHほど大きくはないが、25千光年と近いのでほぼ同じ大きさに見えるはずで、今観測努力中と2019年4月に聞いたが、以降1.5年経ってまだ画像の発表はない。

 しかしそこにBHがあることを別々に実証したのが、米人Andrea Ghez教授と独人Reinhard Genzel教授だ。銀河の中心の恒星の動きを30年近く観測して、確かにBHの周りを回っていることを突き止めた。Ghez教授はHawaiiのMauna Kea山頂のKeck天文台の10mの望遠鏡で、Genzel教授はチリの国際天文台の8mのVLT=Very Large Telescopeで、追い掛けた。因みに私はKeckの巨大な望遠鏡を観光ルートから見学させて貰った時に"Oh, this telescope is certainly bigger than my telescope !!"と叫んで、周囲を大爆笑させたという、私としては数少ない成功談がある。

 可視光線は周囲のプラズマに吸収されて見えないので、波長2.2ミクロンの赤外線で観測したという。Hubble望遠鏡は何十年ももたないから、地上の望遠鏡で見るのだが、大気の揺らぎで画像が揺らぐ。焦点にComputer駆動の鏡を置いて、明るい星を基準に揺らぎを補正するAdaptive Optics技術が確立したため、1990年代にそれぞれ独立に太陽の4百万倍の質量のBHが無いと説明できない30個ほどの恒星の動きを掴んだという。 以上