縁あって国立天文台野辺山を案内してもらった。八ケ岳東麓の野辺山駅の2km南の広い土地にあり、野辺山宇宙電波観測所と野辺山太陽電波観測所という2つの組織と設備がある。清里の美し森山から遠望できる巨大な白いパラボラ群を何時かは間近で見たいと思っていた。誰でも無料で見学出来るように相当高度な屋外パネルが置かれている。我々は幸い研究者に案内して貰ったので、好奇心溢れる質問を沢山することが出来た。
周りの森はカッコウの住処のようで、見学の間中四方で複数のカッコウが鳴いていた。かなり高い唐松のテッペンで鳴いているのを望遠レンズで撮影することにも成功した。鳩を二周り小さくした感じだった。
可視光でも電波でも同じことだが、望遠鏡の口径D(mm)が大きいほど分解能が高まる。英天文学者Dawesが提唱した分解能Dawes Limitの角度は 116秒÷D で計算される。無限遠の点光源を観測する場合、点光源が実像を結ぶ焦点面上で実像から少しズレた点では、光路長が異なるため電磁波の位相がズレて信号が弱くなる。口径Dが大きいほど光路長の差が大きくなって実像を外れた信号が弱くなりシャープな実像になる。近接した2つの光源を区別できる。巨大な口径の望遠鏡の代わりに、小さな望遠鏡を多数T字型や十字型に配列して信号処理を上手にやれば、同様に高い分解能が得られる。だから清里から見たパラボラが配列を成していた訳だ。因みにパラボラ型の電波望遠鏡は三菱重工・三菱電機の独り舞台だそうだ。
「ミリ波干渉計」と呼ばれるパラボラ配列があった。10mのパラボラ6台がレール上を移動出来るように設置されている。レールは南北に1本と、北から60度の角度で北東に伸びる1本がある。信号処理によって直径600mの電波望遠鏡として 3 x 10^-4度の分解能で、80-230GHz=1.3-3.7mmの信号を観測できる。ただこの装置は最近使用を中止し、ChileのAndes山脈の頂上に作った日本・台湾・北米・欧州の共同設備ALMAに移行したという。こちらは口径12mが54台、7mが12台で口径18.5kmの巨大な電波望遠鏡に相当するという。割り当てられた時間帯には、野辺山から遠隔操作でALMAを操作する。但し通信回線が今の所わずか65kb/秒で(原始的な無線に違いない)、画像は別途ディスクを送って貰うとか。
これら電波望遠鏡は、光学望遠鏡と同様に様々な目的をもって宇宙を観測している。当観測所の最大の学界貢献は、下記45mの望遠鏡で某銀河の中心にあるBlack Holeが秒速千kmもの周辺速度で回転していることを実証したことだと聞いた。Black Hole周辺から来るミリ波が、Doppler効果で左右の周波数が異なることから実証できたそうだ。
北端には口径45mの巨大なパラボラがあった。Cassegrain方式で、大パラボラで集められた電波が中央の小さなパラボラで再び反射し、大パラボラ中央に開けられた円筒の中に吸い込まれて行って焦点を結ぶ。センサは絶対4度=摂氏-269度でたった24画素だと聞いた。だから広範囲の画像を得るためには、首を振って空を走査しなければならない。偶々観測に使っていなかったので、操作盤で角度を入力して巨大なパラボラを動かすことをやらせて貰った。パラボラを操作盤の方に向けると、中央の巨大な円筒状の穴が見えた。すぐ不思議になって、雪が降ったらどうするのかと質問したら、パラボラを縦にして積雪を最小限にし、晴れてから太陽を追尾して融かすという説明だった。この望遠鏡は 1-150GHz を観測するが、270-818GHz=1.1-0.37mmのサブミリ波は、同じくAndes頂上に日本が単独で設置した最新技術の10mのパラボラASTE望遠鏡を遠隔操作しているそうだ。
太陽電波観測所には2つの設備があった。電波ヘリオグラフは、T字型に配置した84台の80cmのパラボラで、直径500m相当の太陽電波望遠鏡を構成し、太陽の表面から発せられる17/34GHzの電波を観測する。太陽電波強度偏波計は、80cm以下のパラボラ8個で名の通り強度と偏波のデータを取っている。これで太陽から噴き上がる炎フレアの観測などをしている。
国家財政が苦しいため予算は年々削られているとかで、正式な研究員は3名と補助員で研究を続けているとのこと。しかし野辺山の田園風景の中に忽然と現れた学問の府に興味は尽きなかった。 以上