5月31日に上高地に泊る前に、乗鞍岳の最高峰剣ケ峰3,026mに登ろうと目論んでいた。標高2,702mの畳平までは、マイカー規制ではあるがバス・タクシーで上れる。そこから1時間半で剣ケ峰に登れると聞いていたので、ワイフには畳平のレストランで昼食をとってもらい、背後のお花畑や近くの丘の摩王岳2,764mに登るなどして時間を過ごして貰うことにし、私は3時間で帰って来ると約束して出掛けた。
握り飯を頬張りながら砂利車道を登る。風が強く手がかじかむ。万が一と思って持って来たジャケットで助かった。車道は摩利支天岳頂上にドームを持つ乗鞍コロナ観測所2,860mに向かうようだ。下りて来たカプルに挨拶して、この道を行けば剣ケ峰に行けますかと念のために聞いたら、いえ駄目ですと言われた。通り過ぎてしまった途中の分岐点2,780mから雪をラッセルして行くのだという。その道は雪深く道だとは思えず通り過ぎていた。登山靴を履いて来ていたら悩んだと思うが、軽装過ぎて悩む余地もない。諦めて観測所に上った。それでも10mほど雪の中を足を滑らせながら歩かねばならなかった。観測所から北を見れば畳平が一望できる。ワイフに勧めた畳平の南側のお花畑2,680mは雪に覆われている。観測所から南を見れば、目の前に剣ケ峰3,026mとその手前の朝日岳2,975mが聳える。肩の小屋2,760mが真下に見え、それから登って行く登山者が遥かに追える。肩の小屋周辺に雪は無いが、朝日岳の東側から稜線に出る急斜面は雪が深そうで、アイゼンとピッケルが必要か、少なくとも持って行かないと不安そうな登山路だった。せめて分岐点から肩の小屋まで行けないかと登山者の雪道の歩き方を観測所から遥かに観察すると、モタモタして相当雪が深そうだったので、最終的な諦めがついた。畳平の電波が幸い届いていたのでワイフに、登山は諦めたのであと半時間で戻ると修正を入れた。
下り道で追い越したフル装備の登山者に挨拶して「夏山のつもりで来たらとんでもなかったです」と言ったら「今年は雪は少なかったですよ」と答えた。私には「馬鹿、この季節にそんな軽装で来る奴があるか!!」と聞こえた。私が高尾山でハイヒールを見掛けた時の感情と同じだろう。
畳平の予定が2時間短縮されたので、前から行きたかった白濁した温泉の白骨温泉に渋るワイフを説得して立ち寄った。沢渡の下から川沿いに南西の山地に県道300号線で3-4km上る。山肌にかじりつくように10軒ほどの温泉宿の集落がある。一番高い位置にある湯元斎藤旅館が最初に江戸時代に出来た老舗で、古い歴史があるという。遥か下の川岸に公共露天風呂があると聞き興味を惹かれたがワイフと一緒なので諦めた。
集落から南に1-2km行った所に3軒の温泉旅館がある。その1つ「泡の湯」の日帰り湯に入浴した。生憎本館の立派な温泉には入れなかったが、別棟の小風呂には入れた。白濁の温泉に憧れて来たのに、集落からかなり離れた別の山なので白濁ではない湯ではないかと心配して湯船を覗いたら無色透明だった。してやられたかと思ったが、この内湯は温泉ではなく真水を沸かしたお湯だった。露天風呂は確かに白濁した温泉で、注入口には石灰が析出していた。良かった。早速憧れの白濁温泉で疲れを癒した。
なぜ「泡の湯」かというと、炭酸ガスの泡が温泉に含まれていて、入浴すると肌にまとわりつく感触があるからだと。湧き出し口では無色透明だが時間経過と共に、(1)硫化水素=HS から硫黄が析出、(2)重炭酸カルシウム=Ca(HCO3)2 が炭酸カルシウム=石灰=CaCO3に変わって析出するからだという。毎分1.7tの湧出があるというからすごい。
思い出したのだが、白濁が薄くなった泉源に草津温泉の湯の華を溶かして白濁させていたという偽装のニュースが2004年にあった。その後白濁した泉源から温泉を融通して貰う形で今は信頼回復に努めているという。「泡の湯」の本館では、男女別の風呂の他に混浴大露天風呂があるのだそうだ。男女別の脱衣所から白濁した湯に浸かったまま移動して大風呂に出れば恥ずかしくないと宣伝していた。面白い。
白骨の語源は白船で、大木を彫り込んだ風呂桶が船型だったという。
もう一度ゆっくり探訪したい希望を抱いて、上高地に向かった。 以上