福島第一原発の事故を受けてScientific American6月号は"Planning for the Black Swan"という記事を早速掲げた。素早い対応にまず驚く。Black Swanとは、重大結果を招く予測できない偶発事象を意味する表現だ。福島のような緊急事態への対応策という意味だろう。米国の雑誌だから勿論米人視点で米国の原子炉事情を見つめる。
米国には104基(日本では54基)の原発があり、20%(日本では23%)の発電量を負う。内35基(日本では41基)がGEの設計で日本では東芝と日立が担いだ沸騰水型、69基(日本では13基)がWestinghouseの設計で三菱電機が担いだ加圧水型だ。日本では前者が多いのは提携日本メーカの力だ。米国35基のうち23基は福島と同じ一番古い設計のMark 1型である。沸騰水型は名の通り原子炉で水を沸騰させて蒸気でタービンを回す。加圧水型は、原子炉を高圧に保って水の沸騰を抑え、熱水を蒸気発生器と呼ぶ熱交換器に送り込み、そこで別系統の第二次水を沸騰させる。米国ではGEが沸騰水型で先行したが、Westinghouseの加圧水型の方が良いということになって米国では伸長した。但し私の素人目には五十歩百歩で、福島に同じ思想で設置されていたら同じ結果だったと思われる。
1979年のThree Miles原発の事故は加圧水型の小さな事故の対応操作ミスで発生した。以来米国では1基も原発が建設されなかったが、多くの原発が耐用年数を迎えて使用期間延長よりも更新がより安全と考えられ、22基の原発の更新計画がある。内12基はWestinghouseの新型 AP1000で、10基がその他の新型機だ。東芝がWestinghouseを買収した賭けは福島の事故で怪しくなっているが、同社の健闘は東芝には良いニュースだ。
米国の石炭発電所は発電量の50%を発電し、国全体の80%の二酸化炭素ガスを放出している。天然ガス発電所の建設費を1とすると、石炭は2.5、原発は5だが、燃料費は天然ガスが1に対し石炭が0.4、原発が0.1だ。
AP1000は、Westinghouse伝統の加圧水型で上記の蒸気発生器を用いる。停電になっても電池でしばらく動くが、電池も切れて循環ポンプが止まると、格納容器内に設備された3つの緊急水タンクから水が自動的に原子炉(圧力容器)に流れ込んで冷却する。更に上部にある巨大なタンクからの水が格納容器を外から冷やして3日間持つし、外から給水もできるようになっている。格納容器を空冷するための空気取り入れ口が建物にある。電源が無くても人手でなくても、自然に冷却できるというのが売りだ。
GEは日立との合弁会社で新沸騰水型ESBWRを、仏Areva社は新加圧水型のEPR=European Pressurized Reactorを売り込んでいるそうだ。ESBWRは、自然冷却の代わりに、2台の発電機に4台のDiesel Engineを接続して別棟に用意する。またCore Catcherという機構があり、燃料のMeltdownの際に燃料をこれで受け、水浸しにするという。
これらの能書きを見ると、福島の事故を教訓に改良設計したかの如くだが、勿論10年も前からこういう開発設計をしてきている。ということは、設計者の間では福島のような事故はお見通しだったということだ。
さらに先にはPebble Bed Reactorが開発中だそうだ。最初ドイツで開発されたが国の方針で廃案となったため、南アフリカと中国で引き継がれ、中国ではプロトタイプが動いているそうだ。微小な核燃料をセラミックで閉じ込め、それを無数にテニスボール状の黒鉛に埋め込んだPebbleを数千個、ジョウゴ状の原子炉に詰める。何時間燃やしたかとかうるさいことは言わず、ジョウゴの底から古い燃料を抜き、上から新しい燃料を加える。全体を二酸化炭素や窒素のような不活性ガスで冷却し、その熱ガスで蒸気を作る。千数百度の高温で運転するVHTR=Very High Temperature Reactorの一種で、高温だから事故の際にも自然冷却が働くという。
福島の事故で原発への感情的な反発が高まっており、それは民意として理解出来るし仕方ないことだ。しかし原発を止めても対案は無いと私は思う。当面既設の原発に津波対策など後付けの改良を加えて運転しつつ、出来るだけ早期に改良型に乗り換えるのが現実策だと思う。米仏中は間違いなくその方向に行くと思う。日本は追い付くのか見逃すのかだ。 以上