日経B 8月20日号は、「インテル、33年ぶりの祖業復帰」と題して、同社がFlash Memoryの「オプテインDCパーシステントメモリー」を8月に出荷開始したと報じた。5月に予告発表していたものだ。カタカナで書くと分かり難いが、Optane DC Persistent Memoryで、Optaneは固有名詞だ。同社はかつてDRAMメモリで一世を風靡したが、日本、次いでアジアの安いDRAMが世界を席巻し、Intelはメモリから撤退しマイコンに集中した。
スマホのメモリに使われているFlash Memoryは、20nmほどの薄い酸化物絶縁膜で電極から隔てられた浮遊電極に電荷をねじ込んで、ゲートを導通状態にするものだ。東芝半導体の舛岡富士雄氏が発明し、東芝に巨利をもたらしたが、充分報われなかったとして東北大教授に転じた氏から裁判を起こされた。電極に一斉に電圧をかけることで、浮遊電荷を吸い出して、写真のFlashのように一斉に消去できるから、Flash MemoryだとWikiには書いてあるが、私の記憶では素子のケースに透明な窓があって、本当にFlashで消去するメモリもあった。トイレを流すFlushではない。
PCの主記憶などにも広く使用されているDRAM=Dynamic Random Access Memoryは、1 bitに1つの微小なCapacitor=Condensorに電荷を溜める。電荷は少しずつ洩れて弱まるから、一定時間ごとに更新が必要で、だからDynamicと呼び、電源が続く限り記憶しているStatic Memoryと区別する。広く普及しているDRAMの製造装置を流用して、Capacitorを構成する絶縁体の膜の代わりに、Optaneでは相変化材料の膜を置く。
この相変化材料に電流を流して発熱させると、材料は低抵抗の結晶相から高抵抗のアモルファス相に変わる。その抵抗値の変化を"1"と"0"に対応させるとFlash Memoryになる。相変化メモリ=Phase-Change Memory=PCMの一種だ。Intel社とMicron社は、このPCMの技術を共同開発し"3D XPoint"(Cross Point)と命名した。その名は既にWikipediaにある。積層できるので3Dであり、交差格子状に集積するのでXだ。その技術でIntelが商品化したのが"Optane"で、Micronはその商品を"QuantX"と名付けた。
Wikiによれば、3D XPointはビット当たりDRAMの半分の価格、NAND Flash Memoryの4-5倍の価格になるが、NAND Flashより読み出し遅れ(アクセス遅れ)が1/10、書き込み寿命が3倍、書き込み速度4倍、読み出し速度3倍、消費電力 30%だという。つまり磁気ディスクやシリコン・ディスクのキャッシュメモリの位置付けであろう。既に自分のPCに実装して実験した報告が幾つかWebに出ているのを見ると、シリコン・ディスクと同等の価格の磁気ディスク+Optaneで、4倍の容量を実現し性能は上回るとのこと。なおIntelは、こういうキャッシュメモリ用途の他に、安価なPCや制御装置に、DRAMに代わって主記憶として使えば、速度・性能は劣るが、同じコストで4倍の容量が実現できると言っている。不揮発性(電源を切っても消えない)が特長になる。IoT用の端末等には福音であろう。
そう聞くと成功しそうな部品かと思われる。GoogleはCloud Computing Serviceで、Serverのキャッシュ用に大量に使用すると表明している。しかし、成功が見えて来ると類似品が安く大量生産されてきて、知的財産権でも対処できないのが、歴史の教える所だ。
冒頭に言及した、日経BのSilicon Valley支局が書いた「世界鳥瞰」の記事は、上記のような技術面には触れず、Intelの事業戦略に注目している。インテルの主力製品であるマイコン=CPUの「未来に暗雲が垂れ込めている」と記事は言う。性能向上の切り札だった、半導体設計の最小単位を10nm=百万分の10ミリに縮める製造プロセスが中々うまく行かず、2017年完成の予定だったのを2019年に延ばすと今年7月に公表し、株が下がったという。CPUが伸びないならメモリでとIntelはメモリに再進出したというのが記事の趣旨だが、それは多分話を面白くしただけだと思う。
製造プロセス開発に何か齟齬があったことは間違い無かろうが、Intelがそれを開発できない本質的な理由は無いだろうし、メモリがどんなに売れてもCPUの薬九層倍の商売に匹敵するはずがない。
しかし新メモリの出現は楽しみだ。 以上