英Oxford大と英・スウェーデンのAstraZeneca社が共同開発中の新型コロナウイルスのワクチンは、世界各国で最終治験が行われて来た。正確にはOxford大が開発し、4月にAstraZeneca社が提携して治験と生産を担当している。その治験の中間結果として90%有効という発表が、11月23日のNature Newsに掲載されたが、学者は当惑しているという。"Why Oxford's positive COVID vaccine results are puzzling scientists"
治験の最中に英国で治験参加者の1人が脊髄炎を起こしたので、9月6日に治験は一時中止された。1週間で再開されたが、米国だけは10月23日に再開されるまで7週間止まった。一方Brazilでは1人の参加者が10月21日に新型肺炎で死亡した。しかし治験は止められなかったので、ワクチン組ではなく偽薬組だったと考えられている。米国が再開を遅らせたのは、納得しなかったからだとも言われるし、競合社を遅らせるためとも言われる。これ以外にワクチン接種による重い副作用は無いという。
今回の発表は、米・英・南阿・日(聞いてないなあ)・露・Brazilで行われている最終治験の中の、英・Brazilの11,636人に関する結果だ。1か月おいて2回の接種を行い、11月4日までの、第2回接種の2週間後の感染有無を調べたそうだ。第1回と第2回に同じ規定量を接種した人数Aが8,895人、第1回は半量にした人数Bが2,741人だった。不思議にも、Aでは有効性62%、Bでは90%だった。併せて70%だったと発表した。私が検算すると、
A:(8,895-2x)/(8,895-x) = 0.62 x = 2,449 (ワクチン組の感染者)
B:(2,741-2x)/(2,741-x) = 0.90 x = 249 (ワクチン組の感染者)
A+B:8,895+2,741 = 11,636 (参加者)
2,449+249 = 2,698 (ワクチン組の感染者)
(11,636-2x2,698)/(11,636-2,698) = 0.698 -->70%
となり話は合う。これだけピッタリ合うのだから、今世に流布するいい加減な数字や計算や解釈は信じない方がよい。ただ第1回が半量の方が効くとはどういうことかと学者達は当惑しているという。
Pfizer社/BioNTech社とModerna社のワクチンはmRNA方式で、ウイルスの表面突起物を作る遺伝子mRNAを、人の細胞が取り込むように脂質で包んで接種する。AstraZeneca社/Oxford大のワクチンはAdenovirus方式でありVector方式だ。突起物のRNAを特定のウイルスに組み込みウイルスごと接種する。この運び屋ウイルスをVectorと呼ぶ。当ワクチンでは呼吸器系ウイルス=Adenovirus、具体的にはChimpanzeeの風邪のウイルスを使っている。人の風邪と違ってChimpanzeeの風邪なら、人に抗体が無いからウイルスが邪魔されずに人に接種できるということだ。
Oxford大の当事者は、首を傾げつつ、しかし第1回が少ない方がT細胞の刺激に有効だったのだろうか、と言う。因みにT細胞は、B細胞に抗体を作らせる指令を出し、また既感染細胞をウイルスごと破壊する免疫細胞だ。同じ当事者が言うには、または第1回が強すぎると、人の免疫機構がChimpanzeeの風邪のウイルスに対抗する抗体を作るのに忙しく、突起物にまで手が回らないのかも知れないともいう。この方が尤もらしい。
鼠でAdenovirus方式のワクチンを研究した他の学者は、自分の実験でも第1回の接種を軽くした方が好結果だったという。上記のT細胞/B細胞説を採っている。AstraZeneca社は、摂取量を調節するために治験計画を変更する可能性を当局と相談するという。治験結果を最終的に出してもらって採否を決めるのではなく、英国もEUも、途中結果を随時得ながら最終結果を待つ方式だそうだ。ただ米国の治験は来年まで掛るという。
AstraZeneca社/Oxford大のワクチンは、mRNAワクチンと違って、@ウイルスを増殖させればよいので、2020年末までに2億回分を、2021年3月までに3億回分を生産することができ、AmRNA方式の十分の一のコストで済み、B運搬に超低温は不要で普通の冷蔵庫で良い。C流行が収まるまでは原価で供給すると言っている。日本政府は2021年前半までに、このワクチンを1.2億回分=6千万人分入手すると言っている。EUは4億回分、米国は3億回分確保している。Chimpanzeeになってみるのもありか。 以上