Pale Blue Dot という有名に違いない写真を知らなかった私は、それを大いに恥じ、ご存じない方のために添付し周知させて頂くことにした。
後述の経緯で東大で行われた或る講義に参加した。進行役のNorwegian University of Science and Technology の学長が、「まず最初に」と言ってただ単に黒い四角をスクリーンに映した。そのうちに何かが映るのだろうと思って待った。学長もそれを待つかのような素振りを見せていたが「何も見えないと思うでしょう。しかしココを良く見て下さい」と指し示した先に青白い点が一つだけあった。「This is "us". 宇宙の果て40億マイル(60億km)から見た地球です」と言った。私は英語の聞き間違いかと思った。そんな遠くから撮影したことも信じ難いし、たとえ地球にカメラを向けたとしても写るのは天の川か太陽か、太陽の傍にポツンとある地球で、まさか漆黒の闇の中にある孤独な地球が写るとは夢にも思わなかったからだ。しかし学長は「これはPale Blue Dot と呼ばれる写真です」と言ってその文字を写真の脇に表示し、話を続けた。
本物と知ったらこの写真は極めてEnlightening=啓蒙的だと思った。学長が進行するセッションはScientific Solutions to Global Challenges の講義とパネルだったから、その冒頭に相応しい写真だと感心した。
しかし音速に近いジェット機で十数時間飛んでも半周にもならない巨大な地球が、闇の中の1点でしかないことが不思議だった。また科学雑誌などの説明図に影響されて地球のすぐ傍に火星や金星や太陽があるイメージがあって、孤立した地球に違和感を抱いたが、昔撮影した木星の写真に木星からとんでもなく離れて衛星群があったことを思い出した。衛星システムも惑星システムも非常にSparse=スカスカなのだと改めて認識した。
帰宅後"Pale Blue Dot"でGoogleしたら、日英両語のWikipediaにも添付の写真もあった。Voyager 1号が1990年に撮影したとのこと。地球の軌道半径は1.5億kmだが、冥王星は45〜75億kmだから、Voyagerは宇宙の果てではなく太陽系の外れの60億kmから撮影したことになる。60億km離れて直径1.3万kmの地球を撮影することは60m離れて0.13mmを撮影する視角だから、相当高級なカメラと最高のディジタル画像処理だ。実は太陽系を振り返った写真の中から地球を探し出したようだ。1977年に打ち上げられ、木星・土星を観測した後今でも太陽系外からデータを送っている。1990年の60億kmの時は電波は片道5.5時間掛ったが、今は19兆kmも離れて片道730日=2年も掛る。写真に斜めに走る薄い線条は、太陽光の回折散乱光だという。
体力知力を余らせると退化し老化するというから、努めて出掛け知的刺激を貰うようにしている。米国で航空宇宙用センサで財を成したノルウェー系米人Kavli氏が、隔年に賞金各$1M=1億円のKavli賞を3部門に出し、世界の16研究所にKavli研究所を呼称する条件で出資し支援している。日本では小宮山前東大総長が「世界第一級の研究所を作る」方針で設立した国際高等研究所Kavli数物連携宇宙研究所(日本人率50%)がある。アジアでは他に北京大学と中国科学院の計3か所だ。そのKavli Foundationが5月27日に東大でLectures & Symposiumを開き、ノルウェーから副大臣、駐日大使、上記学長以下数十名の物理学者が出席した。日本人は東大濱田総長、国際担当江川副学長理事以下数十名が参加し、午前は物性、生体、宇宙の講義、午後は持続可能性と健康で、丸一日英語漬けの催しだった。
総長より高給だという宇宙研究所の村山斉所長は、ICU高校出身だけにNativeの英語だった。凡人が同じことを言っても面白くないのに、絶妙の話し方で笑いをとる明石屋さんまの才能まである。例えば宇宙はBig Bangの後、Dark Energyのおかげで最近再び加速膨張し始めたという説明の後で、"Recently" in this case means "since 7 million years ago."と言ったら会場が大爆笑した。濱田総長と江川理事、相原理学科長の英語はさすがに通用する英語だった。他の日本人の学者や有名人は、話の内容は素晴らしいのだが、thをsで発音し全てを5母音で代用するカタカナ英語だった。発音が世界一簡単な日本では若い内に発音学を文法と同様に教えるべきだと、ささやかながら毎夏出身高校で講座を開いている次第。 以上