1月初めの伊勢参りの際、ツアの一環で鳥羽市の「ミキモト真珠島」を訪れた。うどん屋の息子御木本幸吉氏が養殖真珠の開発に初めて成功した拠点だ。今は真珠養殖の工程説明と古今の真珠製品の展示がある真珠博物館、海女実演の見学テラス、大規模な真珠店、御木本幸吉記念館などがある。その真珠店の女性店員に、日本で養殖される伝統の「あこや貝」の真珠と、東南アジアの暖かい海から輸入して来る比較的安い「白蝶貝」の真珠とを区別できるかと失礼な質問をしたら、出来ないとの答だった。白状すれば私には真珠の品質と値段の対応が付かない。同じ直径7mmの真珠を連ねたネックレスでも、3千円の摸造真珠もある。3万円も、30万円の商品もある。値札を外せばどれが高いのか安いのか全く私には判らない。
真珠博物館で暇そうにしていた40歳台の男性職員に色々質問してみた。3千円/3万円/30万円の商品が区別出来ないのだが、どう区別したらよいかと尋ねた。この職員も正直で、肉眼で見れば美しさは多分、30万円>3千円>3万円だろうと言った。模造真珠の核にはPlastic核と養殖と同じ貝殻核とがあり、前者は軽いからすぐ判るが、後者は区別がより難しいそうだ。但し自分たちは勿論区別できるとも言った。まず模造真珠は球形の核の表面に化学的に膜を生成するので表面が滑らかで、だから光沢が良い。養殖真珠は自然任せなので表面に凸凹があり、真珠同志を擦り合わせると(傷付けないこと!)引っ掛かるから、ツルツルの模造真珠とは一遍で区別可能だという。また30万円と3万円の差は肉眼では並べて見た時の光沢くらいしか区別のしようがないが、20倍の拡大鏡で見れば真珠層の巻きの均一さ・欠損場所の有無の差が歴然だという。20倍の拡大鏡など家庭には無いから、容易には区別不可ということだ。Zircon系の模造ダイヤとダイヤモンドは昔は区別出来たが、進化して最近は肉眼では区別できないので、つけている人の品格物腰で区別する他は無いのと似ている。それに、真珠の世界では区別が難しい故にBrand Premiumがかなり高いらしい。
天然真珠ならサイズで値段が異なるのは宝石同様の希少価値と理解できるが、養殖真珠でなぜサイズで値段が異なるのかと尋ねた。Mississippi川の肉厚のドブ貝の貝殻から削り出した球形の核を挿入すれば、その表面に1mm以内の真珠層が形成されるそうだから、サイズは挿入する核の大きさで決まり手間は同じではないかと。答は(1)母貝のサイズにもよるが、1つの貝に小さな核なら複数個挿入できる。(2)表面積が大きいと全体に均一に真珠層が行きわたる確率が下がる。(3)核が大きいと母貝の死亡率が高くなる。などの理由でやはり大きいサイズは歩留まりが悪いと。
真珠には真っ白も青ずんだものもある。人気があってやや高価なピンク系もある。色の差はなぜ生まれるのかと尋ねた。これは環境ではなく貝の個性の遺伝子だとの答だった。母貝の遺伝子ではなく挿入する細胞の遺伝子だ。出来るだけ美しい真珠を作った母貝の、ヒモの部分だと思うが外套膜と呼ばれる部位を切り取り数十個に切り分けて「ピース」とする。移植先の母貝の生殖腺に、円周が刃になったメスで道を切り開き、ピースを1つ挿入し次いで核を挿入し密着させる。傷が癒え、ピースが成長して核を包む「真珠袋」を作り、この袋の内面から分泌した真珠質が核を覆って真珠が出来る。外套膜は貝殻を作る細胞で、黒いゴツゴツした貝殻の外側と、滑らかで光沢のある内側を作る細胞がある。前者を取り除き後者をピースとすると、核の周りに貝殻の内側と同様の美しい膜を形成する。
こうして育てた母貝を開くと、平均3割が商品になる真珠で後はクズになる。クズの真珠層を削って核を再利用したり、真珠層は化粧品などに活用できるそうだ。商品になる真珠は、正確な直径の穴が開いた金属板でふるいに掛けて、0.25mm単位で分類する。同一の大きさの真珠を山にし、一部を一列に並べて微妙なサイズと色を合わせながらネックレスなどに仕上げる順列組合せを決める。ネックレスは一番美しい順番に並んでいるので、紐が切れて自分で紡ぎ直したのでは美しさが低下する。絹糸の場合は2年に1回交換せよと言っていた。そうしている人を私は知らない。最近は耐久性のある金属ワイヤも使われているとか。真珠も結構奥が深い。以上