甲府盆地のJR石和温泉駅から南下する道が20号線に近付く辺りに、「宝石の庭信玄の森」がある。水晶研摩工から宝石商として成功した志村氏が金に糸目をつけずに、瑪瑙、孔雀石、虎目石、各種水晶などの貴石を地面に敷きつめ、瑪瑙の板を並べた上に滝を流した回遊型庭園である。貴石のアクセサリや置物の店、宝石の展示室、宝石店、土産物店などが併設されている。「趣味が悪い」「成金趣味」という人もあり、私なら宝石庭園の代わりに石和大学か石和美術館を建てたい気もするが、一見に値する珍しい庭だ。入場料を払うと人品骨柄を見定めて合格者には庭園と資料館の案内人が付く。案内人の役目は実は案内ではなく、案内中に客の懐具合と宝石のレパートリを探り、最後の宝石店で最適の商品を勧めることにある。1996年に訪れた時には色々宝石を勧められたが買わなかった。11年ぶりに先日行った時には案内が付かなかったので、我々の風采も落ちたものだと思っていたら、案内人が休暇中だったと後で知った。今度は小さな買い物をした。この庭園の目玉が、米Arizona州Petrified Forest(化石の森)から持ち込んだらしい数本の直径60cmもある巨大な美しい珪化木だ。
河口湖大橋を南下して139号線に近付いた辺りにある「宝石の森」は入場無料の宝石・貴石店だが、小振りながらよく似た庭にArizonaの珪化木が3本ある。オーナは甲府の人なので、石和のものと同系と思われる。
Petrified Forest国立公園は、Arizona州東北のNavaho原住民保留地の南側885kuの鉄分で赤い広大な荒地にある。今は草一本無い砂漠だが2億年前にはこの地は熱帯で乾期と雨期があり、南洋杉科の巨樹が茂っていたという。昨年New ZealandでKauri Treeという巨樹の森を見たのがこの種類の木で、北半球では絶滅したという。その巨樹が洪水などで倒されて河床に溜まり、火山灰と砂に埋もれ、有機物が徐々に石英など酸化珪素に置換されて珪化木となった。周囲の土地の色を反映して珪化木も全体的に赤く、しかし七色が混じり、世界一美しい珪化木だ。直径2m以上の丸太や、それが砕けた指の爪ほどのものまで、見渡す限り散らかっている。例えばhttp://www.americansouthwest.net/arizona/petrified_forest/photographs.html などにも綺麗な写真が掲示されている。
Arizonaの華麗な写真を特徴とする月刊誌Arizona Highways(まだ購読している!!)の10月号は、Machintoshの設計者でPull-Down Menuの発明者Bill Atkinsonが、この珪化木をArtだと絶賛して撮影した特集を掲げている。炭素→黒、コバルト・クローム・銅→緑・青、酸化鉄→赤・黄・茶、マンガン→ピンク・オレンジ、酸化マンガン→黒などが丸太の断面を年輪に沿って彩っている。Arizona州PhoenixのGE→Honeywellが技術提携先だった1970年代に訪れた時には、珪化木は勿論採取禁止だったが公園外では黒人の露店が拳大の珪化木を $5-10で販売していた。私有地で採取したことになっていたが嘘臭かった。でも幾つかお土産に買って帰った。1989年の銀婚記念でワイフを連れて行った時には、もう露店は無くなっていた。石和と河口湖の宝石の庭の珪化木は何時どうやって入手したのか知らないが、多分ここから巨大な丸太を何本も輸入したことに驚かされる。しかし経緯はともかく、それだけ珍しいものがそこで見られるということだ。
化石の森は、間欠泉とリゾートとMineral Waterで有名な北CaliforniaのCalistogaにもある。ここはずっと若く3百年前のRed Wood(米松)が火山灰に埋まってできた珪化木で、緑の大木の森の中に直径2m以上の大木が多数横たわっている。しかし土地の色を反映して灰色一色だからArizonaの派手さはない。米Yellowstone国立公園でも珪化木が出土する。売店で買ったものは、名の由来のYellowstoneと同じクリーム色だった。
日本で珪化木が出る所に私は残念ながら行ったことがない。岐阜県美濃加茂市にある「日本昭和村」の目玉として日本最大の直径2.5mのスギ科の珪化木があるという。石川県能登町や白山市にも珪化木があることが知られている。また岩手県一戸町には、直径2m、高さ6.5mの2千年前のセコイアメスギの珪化木が倒れずに立っており、直立した日本最大を称す。
でもやっぱり世界一の珪化木はArizonaのものだと思う。 以上