今日本で接種が進んでいる米製薬大手Pfizer社のワクチンの生産工程を勉強した。Pfizer社のワクチンはmRNA型だ。独の開発会社BioNTech社が開発し、Pfizer社が商品化・生産した。新型コロナウイルスの表面に約百本生えている突起物=Spikeを作る遺伝子mRNAを、脂質に包んで注射する。これが人の細胞に取り込まれ、大量のSpikeが生産される。Spikeだけなら病害を生じない。この異物を攻撃する免疫ができて、本物のウイルスが侵入して来た時に闘ってくれる。mRNA型のウイルスは歴史上前例がなく、Pfizer社と米起業会社Moderna 社しか生産していない。但し生産工程では、一重鎖で不安定なmRNAではなく、二重鎖のDNAから始まる。DNA型のワクチンに注力している会社もあるが、mRNA型よりも効きが悪い。
初期の開発競争では、Pfizer社よりもModerna社の方が先行していたが、治験以降で一気に百戦錬磨のPfizerが抜き去った。
4月28日のNew York Timesが"How Pfizer Makes Its Covid-19 Vaccine"という以下のような記事を掲載した。St. Louis空港があるMissouri州Chesterfieldで作業が始まる。ここではPlasmidと呼ばれるSpikeの遺伝子を含む環状のDNAを作り(ここが大変なノウハウであろうことが想像される)、-150度で冷凍保存している。それを所要分だけ融かし、E.Coliと呼ばれる細菌に取り込ませる。この細菌を20分に1回分裂させ、数日かけて増殖させると細菌の細胞内でPlasmidも無数に増える。
増えた所で薬品で細菌を殺し、細胞内のPlasmidを放出させる。これを精製してPlasmidだけを取り出す。それに酵素を加え、SpikeのDNAだけを環から切り離す。濾過してSpike DNAだけを取り出す。このDNAを冷凍して密封し、小型の温度モニタと共にコンテナに荷造りする。このコンテナはドライアイスで-20度に保たれて、Boston郊外のAndover,MAと、独Frankfurtに近いMaintzのBioNTech社の工場に送られ、更にベルギーのPuursで以下の米国と同じことが欧州でも行われ、欧州を中心に出荷されている。今日本で接種されているワクチンはベルギーから来ている。
Andover(独Maintz)では、DNAに酵素を加えてDNAの情報をmRNAに写し取る。それを濾過してmRNAだけを取り出す。16リットルの袋に詰め、-20度でMichigan湖の東にあるMichigan州Kalamazoo(ベルギーPuurs)に送る。そこでは冷凍するが、必要に応じて融かし、純水で薄める。他工程で用意された脂質をエタノールに溶かした溶液と混ぜると、mRNAを無数の脂質が幾層にも取り囲んで球体にする。再び濾過してエタノールを含む不純物を除き、また殺菌する。
脂質の役目はまずmRNAの保護であり、次に人間の細胞同士が日頃相互にやり取りし取り込んでいる小胞と誤解させて細胞の中に入り込む役目を持つ。mRNAは負電荷を持つので、正電荷を持つ脂質を選ぶのだが、常に正電荷を持つ脂質は決まって毒なので、負電荷に接した時にだけ正電荷を持つ脂質を探すのが大変だったという記事を見たことがある。
小瓶を洗浄殺菌し検査する。真空中に置いてヒビが生じないことを確認する。自動機で濃縮溶液を0.45mlずつ小瓶に入れ封止する(接種会場で薄めて注射する)。検査の後小瓶はPizza Boxと呼ばれる箱に195瓶(13 x 15 ?)ずつ入れる。それを5段に積んで300箱ずつ冷凍庫に保存し、2-3日掛けて長期保管に必要な-70度にまで冷やす。冷凍のまま4週間保存する間に、AndoverとChestfieldにサンプルを戻して最終検査をする。
検査が合格なら、冷凍庫から箱を取り出し、出荷箱に1箱乃至5箱を、温度センサとGPSと共に詰める。出荷箱ごとに20kgのドライアイスを入れる。TVで、内壁の厚い出荷箱のドライアイスの煙の中からPizza Boxのような白い箱を取り出す映像を見たことがあればそれだ。
現在Pfizerは上記工程で60日間を費やしており、その半分以上は検査だという。2020年9月から生産を開始し、米国だけで4月22日までに1.5億回分を出荷し、6月半ばまでに3億回分になるという。因みに欧米より1.5桁感染者が少ない日本には、5月までで0.3億回分が入る。近くModerna社製を認可し、東京と大阪の大規模接種会場だけで接種するという。 以上