毎日新聞が出している「週刊エコノミスト」10月4日号は、「人口でみる世界経済」の特集で人口問題を各局面から取り上げていて面白い。
巻頭には日本総合研の藻谷浩介氏が書いている。2010年出版の評判の「デフレの正体」では、日本のデフレの正体は人口減少にあるとした。私は定性的には同感するが、定量的には主因ではないと思っている。デフレが始まった1990年代にはまだ人口減少は表面化しておらず、その後減少したが緩やかで、経済の落ち込みと比例しないからだ。つまり主因は別にあると思う。しかし藻谷氏は今回も「人口減少が真因だから金融緩和しても効かない。政府も仕方なく子育て支援や女性就業に注力するようになった。俺の言う通りになった。」と言っている。違うと思うけど。
特集では、中国は農村人口の都会進出で経済成長したが、農村からの人口供給が底をついて低成長になったこと、中国などアジア諸国は豊かになる前に高齢化を迎えるリスクがあること、少子化のドイツでは移民と全国民の労働参加で経済を支えていること、などが取り上げられている。
いずれも「経済が発展すると少子化になる」という前提だ。なぜそうなるのかは書いてないが、(1)出産数を制御するKnowhowと手段が容易に入手可能になる。(2)生活にも育児にも金が掛かるようになる。(3)同じ理由で女性が働くようになり出産しなくなる。という辺りが理由だろうか。 私の興味を惹いたのは、次の記事だった。Poland生まれでBremen大のGunnar Heinsohn教授は「テロの原因は人口の不均衡」だと主張する。初めて聞いた説だ。Youth Bulge=青年層の膨らみ に注目し、野心的で活動的な年代である15-29歳の人口構成比が30%を越えると、その野心を受け止めきれない社会は不安定になるとしている。社会で自己実現できない怒れる若者は、移民するか、犯罪に走るか、反体制の反逆や革命を求めるか、既得権者層と対峙するか、いずれにせよ社会の不安定要素になると。
教授は「戦争指標」=(15-19歳の人口)/(55-59歳の人口)を定義する。間もなく社会人デビューする人口を、間もなく引退する人口と比べて、等しければ前者が問題なく社会に受け入れられる。前者が極端に大きいと若者がアブれて社会が不安定化し、戦争が始まるという指標だ。
Zambia=7.0が最も高く、Afghanistan=6.4、Palestine=5.8、Iraq=5.7、Sudan=4.7、Syria=3.7、と国情不安定で戦乱が絶えない国が続く。1点台にはBrazil、Iran、Israel、Vietnam、の順で中国=1.1、米国=1.0がある。1点未満には英、韓、日=0.82、加、伊、露、独=0.69と続く。
1914年には独+仏の人口1億人は全アフリカの人口とほぼ等しかったが、2015年には1.5億人 vs 12億人になり、アフリカの人口はなお急増中である。アフリカから欧州などへの大量の移民が可能ならバランスが取れるが難しいだろうと。民族感情だけでなく、教育の差が移民を難しくしていると教授は言う。1957年にGhanaと韓国はほぼ同程度の経済規模だったが、教育の差でその後経済規模は様変わりしたと。国内でも同様で、教育は平等よりも不平等を呼ぶと教授はいう。
キリスト教徒の人口は15世紀末から1916年までに0.5億人から5億人に増え、その人口圧力が植民地獲得と侵略戦争を起こした。ワンテンポ遅れて人口が増加した日本は先人を真似て隣国を侵略したが、先進国に潰された。イスラム教徒は1900-2013年の百年間に1.4億人から15億人に増えた。しかも若者が増えた。これが今世界を不安定化しているという。
独は少子化を積極的に移民で埋めていて、それが国内テロの要因になっているという。移民とその子孫の10%は社会の「負け犬」になり、暴力に訴える傾向が生じると。極端に貧しくもなく飢えてもいない負け犬の若者達が、活躍の場を求めてISに志願したり国内テロに走ったりしているのであって、貧困がテロの原因だという説は幻想だと教授はいう。
Singaporeでは42%が外国人、スイスでも33%だが、優秀な人材を移民として受け入れて国に貢献してもらっている。それに対して近年欧州に押し寄せている難民は選ばれた移民ではないから問題なのだという。日本は独の真似をするな、必ず問題化すると教授は警告している。 以上