Populismの時代だ。2016年6月のEU残留/離脱を問う英国民投票も2016年11月の米大統領選挙も、事前世論調査はおろか出口調査をも裏切る結果になった。EU離脱=Brexitを主導したのは、問題発言と結婚・不倫歴が多彩で民衆に人気の Boris Johnson元London市長だった。Johnson氏はEton/OxfordのEliteだが、無知蒙昧な民衆の味方として扇動した。Johnson氏は、Brexitで大量得票をしても勝利はしない計画で、その実績で保守党党首を狙うつもりだったという。しかし勝ってしまった。Brexitの困難を知る彼は党首選に立候補せず、Theresa May氏が党首・首相になった。
米大統領選では、Johnson氏と共通点が多いTrump氏の"America First"は信念だったろうが、同情の片鱗も多分持ち合わせなかった低学歴白人労働者の味方を装い当選を勝ち取った。大統領になることは望外の誉だったろうが、大変な業務を国のために遂行する熱意があるようにも見えない。もし名誉ある花道があれば大統領を辞任する可能性すらあるだろう。
出口調査でも結果が予測できなかったのは、投票結果を聞かれた後に「なぜ?」と問われると答に窮する自信の無い投票者が、最初から黙秘権を行使したに違いない。理性的に考えれば、彼らの投票は国を危うくし、彼ら自身が救済されないばかりか自身にも被害が及び兼ねない。
ところで最近次の本でPopulismを勉強し、1単位取得した気になった。
ポピュリズムとは何か 水島治郎 中公新書 2016/12
著者は1967年生、東大法学政治研究科で法学博士。千葉大教授で、欧州政治史が専門だ。世界のPopulismの消長を詳述し、本質を鋭く分析する。
上記前半のように、私の考えの中には(1)Populistに扇動される無知蒙昧な民衆を軽蔑し憐れむ心があった。また(2)自らの野心のために民衆を扇動するPopulistを蔑む心も。米英の知識人一般の考えも同様だと思う。軽蔑する心の反対側に立てば、Populistを支援した民衆は疎外感を感じていたはずだ。知識人全般に反感を抱き、持って行き所のない不満を抱えていたに違いない。そこに、内心では軽蔑していてもそれをおくびにも出さず「私はあなた達の不満を理解する味方だ。解決しよう。」とPopulistが言えば、初めて光明が見え道が開けたように感じるはずだ。こうして世の中を動かしている政治・経済・文化の(Eliteを含むがかなり幅のある)担い手と、そこから疎外されている一般民衆との対立の構図が完成する。その一般民衆を守るために、反移民などの排外思想をPopulistは語る。
上記著作は、この対立構図こそがPopulismの本質だと論じている。だとすれば私達がPopulismを軽蔑することで、私達はPopulismを助長育成していることになる。この点が私が本書から学んだ最重要点であった。
予想に反してMay首相が、EU完全離脱に舵を切った理由も分かった気がした。そうしないと保守党がPopulistに浸食されると見たのであろう。
本書は欧州でPopulismが盛んになった理由を次のように列挙している。欧州に限らず世界各国で当てはまる現象だ。(1)冷戦終結・Global化・EU化で政党間の距離が縮まった。例えば独の既成政党は「ギリシャ支援止む無し」で一致したが、「ギリシャを支援する金があるなら俺を支援してくれ」という民衆の声を掬い上げて「独のための選択肢党」=Alternative fur Deutschland が伸長した。(2)産業構造が大企業製造業から中小サービス業に変わり労組が弱体化。無党派層増加。政党や団体から票が貰えた時代から、政党や団体を批判すれば票が取れる時代に。(3)格差の拡大。
本書は、各国の嗅覚鋭い政治家が変節してPopulismに収斂して行った歴史を詳述している。南米では格差と闘う左派運動からPopulismへ。南米Argentinaでは軍事クーデタの労働局長Peron氏が圧倒的支持を得て大統領に。欧州では国粋主義の極右勢力が思想をかなぐり捨ててPopulismへ。米国では政治経験の無いTrump大統領が突如誕生。日本では橋下徹氏が引用されているが??? Populismが野党の間は既成政党に刺激を与え好影響があるが、Populismが政権に入ると分裂してうまく行かぬものらしい。
本書は冒頭に英国の政治学者(1939-)Margaret Canovanの言葉を掲げている。"Populism follows democracy like a shadow." 以上