変な本を読んだ。別の本を探している内にこの本に遭遇し、表題に惹か
れてKindle版で読んでしまった。著者が何者かWebで調べたがよく分から
ない。多分広告中心に企業コンサルをしている勉強家のようだ。
Speculations on Postcapitalism, Anthony Signorelli,
Blue Harbor 2017/3
広範囲の著作やBlogで活躍している。Postcapitalismに関しては2冊の著
作で勉強したと正直に引用し、内容を詳しく紹介している。
資本主義が人々を幸せに出来なくなって来たのではないか、色々行き詰 っているのではないかと疑念が湧いてきた私の心の隙に本書の表題が飛び 込んできた。Post-は周知のようにPre-の反対で「...の後にくるもの」 だ。日本語に該当する短い表現は無いと思う。Webを色々引いたら「ポス ト資本主義」という言葉が「まあいいか」と思えるレベルに存在した。
独人Karl Marxは1867年にDer Kapital=資本論で、資本主義の自滅を予 言した。資本同士の戦い激化と、被搾取労働者の反乱がその原因だと。し かし共産革命は資本主義から遠い国でしか起こらなかった。予言が外れた のは、技術革新の恩恵が労働者にも及び、また労働者の需給関係が逼迫し 資本家が軟化したからだ。仏人Thomas Pikettyは2013年(翌年英訳・和 訳)に「21世紀の資本論」を著し、格差で資本主義が崩壊すると主張し た。BBCの左翼編集者Paul Masonは2015年に"Postcapitalism"を出版し、 資本主義は死につつあるとした。それが本書の参考書2冊の内の1冊だ。
本書は、Global化とDigital化で資本主義が自滅すると主張している。 限定市場内の資本主義は競争激化で儲からなくなるから、新市場開拓が必 要。しかしGlobal化が進んで、地球上に新市場は無くなった。今更植民地 も作れない。広告による新市場開拓はMediaの多様化で効果が落ちてお り、新技術による市場開拓は近年鈍化しているという。
もっと影響が大きいのがDigital化だという。音楽、SNSなどのソフトな どを典型として、SaaS=Software as a Serviceは、開発費は掛るが増刷・ 配送・供与のコストはゼロだ。だから資本主義的な競争の結果これらの価 格はゼロになる(に近くなる)としている。Google Officeがタダで有る のになぜMicrosoft Officeが売れるのか私にはまだ分かっていない。
著者のユニークな所は、音楽だけでなくあらゆる商品が数十年のスパン ではDigital化され、タダになると言っている点だ。しかも無限に供給で きる。椅子もコーヒーカップも家庭用3D Printerで作れる。そのデザイン をダウンロードするのは音楽と同じだという。そうは言っても、3D Printer用の金属やプラスティックの材料は必要だ。3D Printerは無人工 場で幾らでも作れるとは言うがタダでは入手できまい。しかしそれは小事 として、大きなトレンドは価格ゼロ・無限供給ということだ。食料は合成 肉は既開発だし、合成野菜もやがて出来るだろうという。米国の起業会社 True Companion社は、Dutch WifeのAI版を開発していて、触ると怒るモー ドや喜ぶモードが設定可能で、日々対話できるそうだ。エネルギーは各戸 の太陽光発電(と蓄電)で無限に自家発電できるようになると。
商品がタダに(近く)なり、無限に供給できるようになると、商品を作 る労働対価もタダになり、ほとんどの人々の収入も無くなる。日々の糧を 得るために働いて報酬を得るという労働は無くなり、それでも働くことが 好きな人は無償ででも働く。今でもLinuxやWikipediaを初め多くのソフト はそういう無償労働者に支えられている。人口の1%ほどの音楽家・俳優・ 発明家・開発技術者などには収入があり大金持になる。しかし金はあって も税金以外にはあまり使い道は無い。人口の99%には、UBI=Universal Basic Incomeといって成人1人当たり月額$1k程度を無条件で支給する。
存在意義を失う企業・経営者・資産家などは、こうならぬよう資本主義 の維持に頑張り続ける。しかし大勢には抗し難く、こういう過程を経て、 百年後には全く新しい社会が出来ると本書は主張している。
著者はこう確信しているが、資本主義に毒された私は「人間の性質上、 そりゃ無いよ」と思う。しかし1つのトレンドとして注視しよう。 以上