我々の年代になると、学校で習ったことが、何時の間にか時代遅れになっていることがあり愕然とする。「電話線には毎秒300パルスしか載らない、何故なら」とアナログ理論の証明まで提示された。今は100-200メガビットをゴリ押しで流している。「陽子=Protonは電荷+1を持つ。陽子を構成要素に分けることはできないから、基本粒子だ。」と高校で習い、大学を卒業してから、「陽子は3つのクォーク=Quarkで構成される。電荷2/3のUp Quarkが2個と、電荷が-1/3のDown Quarkが1個だ。中性子はUpが1個、Downが2個だから電荷はゼロ」と本に書いてあるのを見た。Quarkは素粒子で分解できないと聞いたが、紐理論というものが出て来て、微小な紐状のものが振動して素粒子になると聞いた。油断も隙も禁物だ。
素粒子は歳を経てから学んだので、記憶に留まらずすぐ忘れてしまう。仕方ないから6種類のQuarkや、2012年に新発見されたHigg's粒子まで含めて17種類の素粒子の一覧表を部屋に張って時々参照している。6種類のQuarkは次の通りだ。
第1世代 | 第2世代 | 第3世代 | |
電荷+2/3 | Up | Charm | Top |
電荷-1/3 | Down | Strange | Bottom |
世代は時期でも性能でもなく、質量=エネルギーが1-3桁ずつ上がる。各Quarkは頭文字で呼ぶ。例えばCはUと似た性格で質量=エネルギーが6百倍高い。各Quarkは「物質」を構成するが、電荷が正負逆転した「反物質」を構成する反クォーク=AntiQuarkが上表と同じ表で表現できる。Anti-Quarkは通常、下線の逆の上側のバーで表すが、キーボードに無いのでこの場に限って"/"を使う。例えばUに対応して電荷-2/3のAntiQuark=/U、Dに対応して電荷+1/3の/Dがある。
話は陽子に戻る。英誌Natureと米誌Quanta Magazineのそれぞれ2月24日号は、陽子の中身が、反物質を含めてより詳細に分かったと伝えたから、Quark 3個だと思っていた私は驚愕した。私と同様に驚かれる方は、以下をご参照あれ。
陽子の中には、上記6種のQuarkと、そのAntiQuarkの対が数十組も入っていて、対になれなかった後家のUが2個と、Dが1個が余っているのだという。対は電荷を相殺してゼロだから(各対が合体消滅しエネルギーにならないのは下記Gluonの働きだ)、全体では電荷は+1になる。それらQuarkをGluonという「強い力」を生むもう1種の素粒子が結び付けて、陽子という一塊にしている。この状態をProton Seaと言うそうだ。
Quanta Magazineから借りて来た図の上半分は陽子の内部のProton Seaを表す。小丸が二重に描かれているのは、全てQark-Antiquarkの対であり、その色違いは6種類のQuarkを表す。単独の2個のUと1個のDだけが大きめに描かれている。図の下の方に、中性子=Neutronとπ中間子=Pion=Pi-Mesonが描かれている。このように陽子は、頻繁に中性子+π中間子に変わり、またπ中間子を吸収して陽子に戻ることを年中繰り返している。π中間子は1933年に湯川秀樹教授が存在を提唱し、それが当たったので1949年に日本人初のNobel賞になった。その正体は今では U + /D + 数組の(Uと/Uの対)+ 数組の(Dと/Dの対)であると知られている。
Natureの論文は、加速器で陽子を加速して正面衝突させた時の反応だ。陽子の内容物は複雑だから、衝突して壊れると色々な種類の粒子が飛び出す。特に注目した実験が、一方の陽子の唯一の孤立のDが、他方の陽子の多数のDと/Dの対から/Dを奪って合体してエネルギーになり、それがMuon(電子の仲間で200倍の質量)とAnti-Muonに変化する実験を取り上げる。その時のMuonを測定すると、Dと/Dの合体であって他の合体ではないことが分かるのだという。その実験から、陽子には/Dが/Uの1.4倍含まれていることが分かり、そのことが陽子を説明する諸学説を絞り込む重要な一歩になったという論文だった。とにかく陽子のイメージが変った。 以上