皆さんはピロリ菌=Helicobacter Pyloriの除菌は済ませて居られるだろうか。私は人間ドックで7-8年前に除菌した。日本の人口の1割弱しか除菌をしていないというから、本編も無駄ではないかも知れない。除菌しないと大変だという記事を見たのでご紹介する。著者は北海道医療大学学長の浅香正博氏で元来は消化器内科の臨床医だ。最近の同窓会誌に「わが国から胃がん撲滅を目指す戦略とその成果」という記事を寄稿された。10月に東京で行われた講演の書き下ろしだという。
日本人の胃がんの大半はピロリ菌感染が原因で、除菌すれば90%近い胃の病気が予防できるという。2013年に除菌が保健適用になってから除菌する人が増えて、1千万人に達した。除菌と胃カメラの普及で、胃がん死亡数が減少しつつあるとのこと。日本の医療費の年間43兆円(すごい!!国家予算の40% GDPの8%)のうち、胃がん関連は3-5千億円。最近は高価な治療薬も出て来て、益々費用が嵩む。胃がんの原因を取り除く一次予防は、ピロリ菌除菌・禁煙・酒制限・肥満防止など。胃がんの早期発見・治療は、二次予防だという。世界的に見て日本は、二次予防のみに特化した特殊な国だから、もっとピロリ菌の除菌に注力すべきだし、その方が多くの命を救えて、医療費も安上がりだと筆者はいう。
2012年に世界で発生した胃がんは95.2万人。その60%は日本・韓国・中国に偏っている。WHOの国際がん研究機構は「世界の胃がんの原因の90%はピロリ菌感染」であるとし、除菌を強く勧告した。日本の胃がん患者の98%はピロリ菌検査で陽性だという。胃がん発見後の5年間生存率は、日本で70%、韓国で60%だが、欧米・南米・露では10-30%。この差は胃カメラの普及と早期治療法の確立だという。
強烈な酸性の胃には細菌は居ないと言われていたが、1979年に豪州の 消化器内科医Barry Marshallと病理医Robin Warrenがピロリ菌を発見し培養に成功した。その後学界で胃がんとの関係と除菌の重要性が明らかになったので、2人は2005年のNobel生理学・医学賞に輝いた。
ピロリ菌は、胃酸が弱い乳幼児期に経口感染するという。その時の上下水道の整備状況に強く関係する。日本での1992年の調査では、1950年以前に生まれた人の80%がピロリ菌保有者だったのに対して、それ以降に生まれた人は40%だったのは、日本の上下水道普及率と相関するという。それより何十年も前に生まれた私やワイフは、社宅や結婚して公社住宅に入るまでは上下水道に恵まれなかったから、当然ピロリ菌の保有者で、胃カメラで胃潰瘍の跡が複数ありますねなどと言われていたが、除菌してから胃の調子が良くなった。同じ頃仕事のストレスが減ったのかも知れない。
ピロリ菌に感染すると、防御のために白血球やリンパ球が活性化し、またサイトカインが分泌される。サイトカインはピロリ菌を攻撃するが、同時に胃の粘膜を傷付け、ピロリ感染胃炎を発症する。但し自覚症状が無い人も多いという。私もそれに近かった。この状態が10-20年続くと、80%の人は胃の粘膜が萎縮して胃液を出さなくなる萎縮性胃炎を発症し、その 0.5%に胃癌が発生するという。ピロリ菌を除菌すると、ピロリ菌感染胃炎は数か月で完治するけれども、萎縮性胃炎は10年経ってやっと80%が完治するレベルなので、10年間程度は萎縮性胃炎が胃癌にならないか、内視鏡で毎年検査した方がよいという。私の場合は萎縮性胃炎とは言われなかったし、既に7-8年経過しているが、ピロリ菌との関係は知らないで、バリウムよりは内視鏡の方が良いだろうと、毎年胃カメラを呑んでいる。
ピロリ菌と胃癌の関係がまだ分からなかった2003年に筆者は、全国51病院で早期胃癌を切除した患者544人について、約半数をピロリ菌除菌し、半数を除菌しなかった所、除菌群から9人、非除菌群から24人が3年間のうちに胃癌を再発したという。つまり、ピロリ菌除菌は胃癌の予防に効果があることと、除菌しても100%予防できる訳ではないことを、医学雑誌Lancetに発表し、医学界にインパクトを与えたという。そう分かってしまえば今度は、除菌しないで観察することが人道的に難しくなってしまう。とにかくピロリ菌未除菌の方が周囲に居られたら除菌を勧めよう。 以上