東北関東大震災は世界の観測史上第4位で我が国初のマグニチュード9.0だった。米国(英国でも同じとのこと)ではマグニチュードと言わずRichter Scaleと言うが、似て非なるものだ。実は地震のマグニチュードには10種類もの定義がある。そのうち以下の3種類が我々には大事だ。
Charles Richter(1900-1985)はCaltechの地震学教授で、震源での地震の大きさを表すRichter Scaleを1935年に使用した。Local Magnitude Scale=Ml(l=エル)と書く。独語に強い人はリヒタ(=裁判官。英語のRightと同根)と読むだろうが、米人だからリクタだ。震源から100km離れた標準地震計で、針がゼロから水平方向に1μm振れた時をMl=0とした。
Ml=log振幅+距離と機器の補正項 (対数logは桁数を抽出する関数)
具体的には3本の対数目盛を縦に並べた計算用紙があって、緊急地震警報に使っているp波がs波より何秒早く到着したか、つまり震源からの距離を左の目盛にプロットする。次に地震計の振れの最大値を右の目盛にプロットし、この2つを直線で結ぶと、真ん中の目盛でMlが決まる。このようにMlはすぐ計算できるのが長所だ。地震計の針の動きには上限があるから、大地震は100km位の距離では計れないので、もっと遠方の地震計を参照する。それでもMl>6の範囲はRichter Scaleではうまく計れない。
Richterはまた、 被害は地震エネルギーに比例し、それは振幅の(3/2)乗に比例するとした。なぜ3/2か計算したが判らなかった。エネルギーなら周波数も関係し振幅だけでは決まらないから、これは経験値だろう。
一方Caltech滞在中の金森博雄教授は1979年に、Mlに代わって学界で広く使われるMoment Magnitude Scale=Mwを案出した。地震学では、(動いた断層の面積) x (動いた変位) x (断層の剛性係数) を「断層運動モーメント=Mo」と呼ぶ。剛性係数は 力/変位 を表す。Moはその内容から判るように地震エネルギーに比例する。金森教授はMlにほぼ合うように補正係数を定め、Mlが及ばない大地震まで正確に表現できるようにした。
Mw = (2/3)log Mo - 補正係数
書き換えれば、Mo = 10^(Mw+補正係数)x(3/2)=(係数)x10^(Mw x(3/2))
Mwのwは、地震が行う仕事量=エネルギーで定義していることを示す。Mwの+1は振幅の10倍に当たり、またエネルギーの 10^(3/2)=10 x 10^(1/2)=31.6倍に当たる。Mwの +0.2はエネルギーの 10^0.3 = 2倍に相当する。
上記にも拘わらず、地震国の矜持を誇るGalapagos日本の気象庁は、「気象庁マグニチュード=Mj」を使う。2003年に定義を小変更したが、基本はRichter Scale = Mlと同じで、標準地震計の上で、
Mj = log振幅+補正項
の形だ。但し補正項が複雑で素人の手には負えない。日本ではTVで地震速報が出ると直ちにマグニチュードが表示される。Mwはそんなに素早くは計算できない。それが気象庁がMjに拘る理由であろう。
東北関東大震災のマグニチュードを、面白いことに気象庁は9.0と言い、米国では8.9と言っている。Mj=9.0、Mw=8.9 ということだろうか。米国では依然 Richter Scaleと言っているが、実態はMwだろう。
地震の尺度には震度=Seismic Intensityもある。観測地点での地震強度だ。国際標準は無く、世界各国でそれぞれの尺度を使っている。日本は気象庁震度階級を使う。昔は障子がガタガタ音を立てるとか、壁が割れるとか、観測データに頼っていたが、今では全国に4,200台設置された標準震度計で加速度を測定している。構造は地震計と同じだが、加速度波形の低周波数と高周波数の成分を除いた中間的な周波数範囲で、加速度の最大値を周期で若干補正する計算を行って計測震度を求め、震度階級に当てはめている。震度階級は震度0=無感 から 震度7=激震まで8段階だったが、近年に震度5=強震と震度6=烈震を強弱2段階に分けて10段階になった。
マグニチュードの+1は1/10の頻度になるという。Mj=8.0〜8.9の地震が日本では10年間に1回とすれば、9.0以上は100年に1回ということになる。今も頻繁に地震がある。Mj<5が多い。Mj=5はMj=9に比べてエネルギーでは10^(3/2)x(5-9)=10^(-6)、つまり1/百万だ。仕方ない気もする。 以上