11月20日のマスコミは、国産初の量子コンピュータの試作機「QNN」をNTT物性科学基礎研究所が一般公開すると発表したことを伝えた。内閣府の革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)の一環で、国立情報学研究所などと共同開発された成果だという。ただ量子コンピュータの常識を伝え得ないマスコミも情けない。それなら若干の素人解説を試みようか。
まず量子=Quantumだ。Venturre Capitalistをやっていた十数年前に「蛍光灯の消費電力半減」というインチキ発明に出会った。「私は電気技術者なのですが、ご説明がよく理解出来ません。」「それは当然です。この回路は電気で作動しているのではなく、量子で動いているのです。」という会話で直ちに私はインチキを悟り、早々にお礼を言って退出した。電子があるように、量子というもっと高級なものがあると、この発明家は信じていた。そんなものは無い。量子理論では、この世界は全てツブツブで出来ているとしている。長さですら、常識ではどんなに長さを切り刻んでも長さは存在すると考えるが、量子理論では10^(-36)m(10の-36乗)位のツブツブが連なって長さを構成しており、そのツブツブ1個より短い長さは存在しない。そのツブツブを長さの量子という。同様にエネルギーの量子、電荷の量子、光の量子などがある。ツブツブが量子なのだから、電荷の量子とか何とかの量子は存在するが、単なる量子は存在しない。
従来型コンピュータは0と1のBitで情報を表現し、AND、OR、NOTの論理回路で処理する。これらはNAND=AND+NOTがあれば全て実現できる。
量子コンピュータでは、Bitの代わりに量子ビット=Quantum Bit=Qubitで情報を表す。定数a,bがa^2 + b^2 = 1 ならば、半径=単位長さ=1 の円になる。この円を、直径の周りに偏角=θ=0度から360度まで回転させると、3次元空間に半径=1の球面が描かれる。この球面がQubitの概念である。原点から球面の1点へのVectorは、a, b, θから成る。Bitの値が0または1である如く、このVectorがQubitの値である。例えば、電荷の量子=電子ならば、電子のSpin(自転軸に例えられる)の向きが球面のどこかを指す。光の量子=光子ならば、aとbで偏光角を、θで位相角を表現する。
Bitの演算にはNANDがあればよい如く、Qubitの演算にはNOTと偏角θの加減が出来ればよいそうだ。Qubitの特徴の1つは、異なる値を持つ複数のQubitを加算してもQubitになることだ。例えば複数の整数をQubitで表現し、それを加算したQubitで或る数を割り算して、剰余がゼロだったら、この複数の整数のいずれでも割り切れることが1回の演算で証明できる。
或る偏光面の光を或る結晶に通すと、垂直偏光と水平偏光に分離する。2つの光子をQubitと見なすと「量子もつれ」= Quantum Entanglement と言って、互いに離れていても、一方を観測または操作すれば他方の観測や操作が出来るという不思議な性質を持っている。2つで1つの波だと思えば納得の障害を乗り越えられようか。電子でも同様な量子もつれが起こる。これは量子コンピュータでは出力の観測などに有効に活用できる。
情報をどのような形でQubitに載せるか、それをどのような演算ゲートで処理するか、演算でどのようなAlgorithmを実現するか、などが量子コンピュータの研究対象である。全て従来型のコンピュータとは別物だ。例えば光ファイバループで光子群をぐるぐる回すうちに、光子群は一番エネルギーの低い状態になる。それが最適化条件になるような使用法だ。
NTTでは、光通信の部品とノウハウを駆使して、光ファイバループに2千個の光子を回し演算することに成功したという。デモは、2千人を2グループに分ける際に、仲の悪い人が同一グループになる組合せを最小にする計算を5mSで行ったという。尤も、その解は最小ではなく極小かも知れないので、何度か試行して最小値を求める。来年5月を目標に、創薬に役立つAlgoritnmを完成させ、2019年末の実用化を目指す。常温運転が先行例より優れているという。先行例はカナダの起業会社D-Wave Systems社が、2011年に完成しNASAやデンソーが利用している超低温の電子をQubitに使っている例だという。IBMは2016年に5 Qubits、2017年に16 Qubitsの量子コンピュータを一般使用に供している。いや、まだよく分からん。以上