名曲Aloha Oeの作詞作曲家でハワイ王朝最後の女王Liliuokalaniに拘っている。写真ではGrace Kellyには程遠く曙の妹のように見えるが、哀愁のAloha Oeは何にもまして美しい。
女王の自叙伝があることを発見し、米国のハワイ植民地化の歴史が読めるかとAmazonで復刻版を購入した。
Hawaii's Story by Hawaii's Queen, Liliuokalani, Charles E Tuttle
百年以上前の1898年に刊行された本の英語が私に読めるのか心配したが杞憂だった。ただ見慣れぬ語法が随所にあったのでご紹介しよう。女王が少女時代に学んだ米国人宣教師が常用した当時の英語であったのだろう。
stood about the bed は→今なら around the bed だろう。
air→song, office→work, broach→start discussion in
past my comprehension→beyond, wend→go
goの過去がwentなのはwendの過去を横取りしたのだとは知っていたが、この本ではwendedという過去形を使っている。想像できた語法もあるが、air, office, broach などは辞書の下の方を見て初めて理解した。
Amazon掲載の書評のトップに酷評があった。文脈が分かり難く、偶に分かった所には「私は偉大」と自慢話が書いてあったと。読んで見て、この酷評も分からぬではないが、私には面白かった。女王は「濡れ衣」で逮捕され1895年に獄中で退位させられ、Kamehameha大王以来のハワイ王朝を潰した。共和制政府の希望によって米国は1898年ハワイを合併した。そういう時期の刊行だから、当然自己正当化の主張と、自分の国を乗取ったハワイ在住米国人の不当を指弾することに力が入る。そう理解して読めばそれはそれで面白い。一方でどの町を訪れたら誰と誰がどのように歓待してくれたという人名の列挙に多くの頁を割いている。女王にとっては大事な記録であろうし、氏名記載の名誉を与えそれを喜ぶ関係があったのだろうが、百年後の私には読み飛ばし対象である。
この本は3つの点で興味深かった。1つは、弟が王で女王がまだ王位継承者だった時、王妃と彼女が王の名代で大英帝国Victoria女王の即位50周年記念式典に出席した体験談だ。初めてハワイの外に出て初春の米国を列車で横断すると、ハワイでは遥か山頂で見られるだけの雪が平地にもあったとか、花も葉もない裸の木々が延々とあったとか、New Yorkでは寒さに驚いているうちにダウンしたとか、Victoria女王を見たことがない英国民が居るとか、Thames上流では閘門で船が行き来するとか、ハワイの常識とは異なる点が詳述されているのが面白い。
2つ目は、Victoria時代の英王室や貴族の祝典やパーティの様子が詳述されていて興味深かった。特に女性らしく華麗なドレスや豪華な宝石や絶世の美人が描写されている。Victoria女王はズングリムックリで不美人だったが威厳があり、巨大なダイヤモンドをつけて出てきたそうだ。
3つ目はハワイ王国崩壊の経緯だ。米人宣教師と米人の砂糖黍農場主が多数ハワイに入って来る。彼らにとっては、忠誠と恩恵で結ばれた封建君主のような王室は制度として気に入らなかった。また米人よりハワイ国民の利害を第一に考える王室が障害に映る。そこで弟王を米海兵隊の銃剣で脅して「銃剣憲法」に署名させ、王権を制限して立憲君主制にする。おまけに米人が米国国籍のまま内閣と最高裁を牛耳ってしまう。弟王を廃位してLiliuokalaniを王位に就けたいと画策するが、Liliuokalaniは断る。そのうちに弟王は米国にハワイ国民保護の陳情の旅路で急死し(怪しくないか?)Liliuokalaniが即位する。組し易しと見た彼女が意外にタフで米人内閣の当てが外れる。折しも反米武装蜂起が起こったが、すぐ鎮圧され、Liliuokalaniは首謀者(本人は冤罪だと)として逮捕され、宮殿内に幽閉される。国家反逆罪で死刑と示唆されるなかで退位同意書に署名させられる。退位するとやがて仮釈放される。Aloha Oeはこの時の1年の幽閉期間に本も新聞も与えられなかったので作曲に精を出したうちの1曲だったそうだ。恋人との別れに擬えてハワイ国民への別離を歌ったとされる。
時代と文化と民族の激突を読んだ気がした。 以上