消費税増税法が成立した。良かったとは思うがまだ予断を許さない。
日本経済は1991年に変曲点を迎えてモードが変わり、高度成長時代からゼロ成長時代に急変した。その原因は(1)各国の自衛、(2)円高、(3)国際化時代への無策、(4)低生産性産業の保護、(5)生産年齢人口減、だと私は考えている。高度成長時代は、国の一般会計の歳出は税収を10-20兆円上回る形で並行に推移した。不健全ではあったが一応制御範囲にあった。ところが90年代にGDPゼロ成長時代に入った。GDPはゼロ成長だが税収は1990年の60兆円からなだらかに減少して今日の40兆円に至る。一方それとは無関係の如く歳出は成長し続け、小渕内閣は大盤振る舞いをして景気浮揚を図ったが不発だった。小泉内閣は歳出をゼロ成長に抑え込んだが、民主党政権はまた急増させてしまった。米国発の金融危機の下で不運ではあったが、自民党政権の出費はそのままにして民主党独自の大盤振る舞いを加えたからだ。その結果2009年度以降歳出は税収の2倍以上になってしまい、国債を中心とする公的債務がGDPの2倍以上にまで積み上がった。
国債で赤字を埋めるには毎年国会承認を要する。これを特例国債、通称赤字国債という。1966年から建設国債が発行されている。建設資産は長年使うから赤字国債ではないという理屈で別出しにした。この2つは60年で償還する。実際の国債はもっと短い償還期限だから、借換債を新たに発行して60年をつなぐ。その残高が2011年度末で670兆円になった。2001年からは財政投資国債が新設された。投資先からの収入で償還するから赤字国債ではないという位置付けでの別出しだ。その残高が114兆円あり、その他5兆円と合わせて国債残高は789兆円だ。今年度末には822兆円になる。
この他外為資金などの政府短期証券が117兆円、原油備蓄など借入が54兆円、独立行政法人の政府保証債務が44兆円ある。これらを合わせて国の債務は1,004兆円だ。1.2億人の人口で割ると1人当たり830万円となる。
この他に地方債が194兆円、独立行政法人独自の債務が17兆円あるので、合わせて公的債務は1,215兆円だ。その解消には1人当たり1千万円の増税が必要だが、どう考えても無理だろう。過去に積み上げた借金は塩漬けにして貰って(容易ではないが)、新たには借金しないレベルには早く持って行かなければなるまい。それだけでも、45兆円歳出を削るか、45兆円増税するかが必要になる。増税による消費減退を考慮に入れずに単純計算しても、消費税だけで増税すれば現状5%+増税20%超は必要になる。
景気後退を恐れて増税を避けるとどうなるか? 債務は益々積み上がり、どこかで破綻する。可能性が高いと私が思うのは、国債の格付が下がり、ルール上保有国債の計上簿価を8掛け7掛けに再評価しなければならなくなる事態だ。国債価格が暴落し金利が高騰して、国債の発行が出来なくなる。そうなったギリシャやスペインはEUに支援を求めた。日本は誰も助けてくれない。IMFですら日本救済の力はない。政府は金を払えなくなるから、公務員・年金・福祉などが大混乱になる。ギリシャは財政赤字がまだ1割程度だから、1割削減すればよいのだが、それでもデモが頻発して大騒動になっている。赤字率5割の日本ではどうなるのだろうか。
日本が経済成長を取り戻せば希望が生まれる。そのためには日本は国際化して世界の一員となり世界の成長を取り込む他はない。だが日本の選挙民は貿易自由化、外人労働者受入、世界相場の税制や雇用条件、どれを取っても反対だ。だから私は日本の国際化は進まないと予測している。従って日本経済は成長できない。のみならず悪くなると考えざるを得ない。
日本人の多くは、現状が将来にわたって続くという前提で、増税したら不況になると反対する。それは甘美な誤解だ。歳出削減にせよ増税にせよ、日本人はもっと貧しくなる運命だ。政策で徐々に貧しくなるか、或る日ドスンと破綻するかの選択しか残っていない。或る日破綻するのは自然現象として人々は諦めるが、制御されたペースで貧しくしようとするとそれは人為的な悪影響だから猛反対する。だから日本人は破綻を指向する。その指向に反した野田首相は多分選挙で負けるが、突然の破綻を避けようと細やかながら努力した政治家として後世に記憶されるに違いない。以上