浪人
年末で日本ウィンク(株)を畳み浪人になった上で、ワイフと世界一周の旅に出ることにした。2月末に東京港で米客船に乗り、Angkor Watt, Zululand,Iguazu滝などを見ながら西行し5月初めにFloridaで下船、FloridaとHawaiiで遊んで帰る。これで人生観が変わってご隠居の気分になるのか、また何かに立ち向かう元気がふつふつと沸いてくるのか。
この1年半はSky PerfecTVにWinkを売り込んでいた。日本の双方向放送はBML一色になったが、以前からのCS124/128衛星には可能性があった。
テレビの双方向性がInternet化・PC化と同義語であるこの業界で、Winkだけは一風変わった事業思想を持っている。個室のPCに放送が入り込む場合はInternetでも有料でも成り立つが、居間のテレビにInternet機能・PC機能を積んでも視聴者に使って貰えないし、また双方向性の機器費用や月額費用を徴収しようとした途端に視聴者は逃げる、という信念だ。Winkは視聴者に無料でテレビ流の双方向性を提供することに特化してきた。
この考えが良い、双方向性を安く実現しようと、Sky PerfecTVが評価してくれた。BSディジタル衛星放送は、その高精細が家庭ではあまり生きないので「BSディジタル放送は双方向です」という売りになった。対抗上Sky PerfecTVはどうしても双方向性が欲しかったに違いない。
米国Winkは双方向の応答を事業収入にする作戦から、システム構築は先行投資としてやっているが、応答収入がWinkに入らぬ日本ではシステム構築で損をしない費用をSky PerfecTVに要求した。お蔭でSky PerfecTV側は採算上の正当化にご苦労があったが、BSディジタル対抗上は多少苦しくてもやろうと決心して頂いて、4月には仮調印まで進んだ。
それで安心したかこのProject推進役の米VPが二人揃ってSabbatical Leaveに入り、お蔭で大事な時期に「米国での成功が先決、外国に手出し無用」と信じる米国粋派を相手に私が遥か極東から孤戦奮闘する羽目になった。この時私は一計を案じ「Sky PerfecTVが受注できなかったら自分をクビにする」と宣言した。この浪花節が効いて国粋派の先鋒が真っ先に協力してくれたから、この作戦は大成功だった。勿論私には計算もあって、Sky PerfecTVの受注なしにはいずれにせよ日本で事業は成り立たない、仕事は面白くなくなるし、Winkが私を雇っておく必要性も薄れる、それに私は"Salesman's optimism"でこの受注は頂きだと思っていた。
話がおかしくなってきたのはそれからだ。衛星放送受信装置の日本メーカにSky PerfecTVがWink搭載を頼んでも1社も引き受けて呉れなかった。Wink搭載の是非よりも、Sky PerfecTVの受信装置に人手を掛けること自体が、損益問題と人手払底で難しくなっていたからだ。話が延びるうちに、BSディジタルが期待ほどは普及せず当分はSky PerfecTVの競合相手ではないことが段々明白になってきた。すると本来の損益勘定が浮き彫りとなり、遂に11月末にCS124/128での双方向性採用は無期延期となった。
無期延期で失注ではないが、受注出来なかったことに変わりはない。宣言通り自分自身をクビにし、会社を畳む決心をした。日本ウィンクを5年やってきて、米国のベンチャ企業の有りように接し、大いに勉強にもなったし、また米国経営への私の貢献やインプットも幾つかあった。しかし日本で事業を伸ばすことが出来なかったことは残念の極みだ。各当事者の判断・行動はそれぞれ合理的で勿論何の恨みも無いし、自分自身に対しても怪しからぬことに全く反省点は無い。しかし結果責任を負うビジネスマンの良心でケジメを自らつけられることは幸せだと言わねばならない。
そんなにイキがっている場合か? 浪人に耐えられるのか? と自問もしてみる。多分何かを掴み幅を広げることは出来るのだろう。世界一周の航海中にゆっくり自分を観察できるはずだ。当面は手掛けている2社の社外取締役を従来以上に真面目に勤め、名古屋の中部大学の経営サマーセミナーで講義を担当する話が恥にならないように頑張ろう。
ワイフは喜んでいる。早朝に起床して朝食後駅まで車で送り、遅い夜も駅に来て呉れて睡眠不足となった。私の都心勤務以来それが毎日25.5年続き、ワイフあっての会社生活だった。美容睡眠に戻ってもらおう。 以上