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短編随筆シリーズ「うつせみ」より代表作 Photos of flowers, butterflies, stars, trips etc. '96電子出版の句集・業務記録

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うつせみ
2003年 4月20日
             さくら

 植物に関心が無いかに見えた愚息が「San Franciscoに居ると季節がない。桜の写真を送って」というから、「草と木の2種類しか区別しないのかと思ったら、桜まで区別できるとは150%の大進歩」と褒めてディジタル写真を送ったら、「送ってくれた写真は桜?梅?」と逆襲してきた。しかし考えてみると、私も桜の種類を十種類とは区別できないことに気付いて目糞鼻糞の類かと自嘲し、Amazonから図鑑を買って整理してみた。

 高尾駅から北に歩くと旧称農林試験場の多摩森林科学園があり250種2千本の桜保存林が有名だ。昭和天皇が見学され「ここでは色々な交配種ができるでしょうね」と言われたそうだ。桜は自然に交配種が出来る上に、突然変異ででも優れた木が1本出来れば染井吉野や河津桜のように接木でクローン増殖させることも可能なので、実に多種多様な品種が存在する。

 日本で交配種・栽培種の元になっている野生種は十種ほどある。中でも代表的なのが新潟・福島以南の全国で見られる山桜で、歴史的な吉野山の桜は(私は実地を見てないのだが)山桜だ。山桜が伊豆大島・伊豆半島の環境に適応した変異種が大島桜で、真っ白な花と一緒に出てくる緑の葉の対照が美しい。そういえば伊豆で山桜はあまり見かけない。山桜をわざわざ植える人は少ないが、大島桜は庭や公園に植えられる。

 野生種のもう一つの主役が、岩手・秋田以南の全国で彼岸の頃に咲く江戸彼岸だ。何百年という桜の古木の多くはこれだ。枝垂れになるものもあり、形容詞なしに枝垂桜と言えば江戸彼岸のことである。見慣れた染井吉野などに比べてやや小ぶりな花が特徴だ。

 豆桜は富士山や八ヶ岳の山麓・山中でよく見かける極小の花を無数に付ける小木だ。寒緋桜は沖縄以南の野生種で紅色の花が特徴だ。緋寒桜とも言うので彼岸桜と音の上で誤解しやすい。

 以上の主要野生種に関係する主要交配種を次の図に示す。上記以外に北方に広がる霞桜、大山桜、高嶺桜、千島桜などの野生種がある。

 W 豆桜=富士桜−−−−H 彼岸桜=小彼岸桜−−W 江戸彼岸=東彼岸
(富士山麓・関東・長野)   H 八重紅彼岸       (=彼岸桜)
                  H 十月桜          枝垂桜=糸桜
                               (青森以北を除く全国)
                                    l
    W=野生種                        H 染井吉野
    H=交配種                        H 枝垂染井吉野
                                    l
       W 山桜−−−−H 交配種多種−−−−−W 大島桜−−−里桜
      (東北以北を除く全国)        (伊豆大島・伊豆半島)
        l                            l
       H 寒桜                      H 河津桜
        l                            l
       W 寒緋桜=緋寒桜−−−−−−−−−−−−・
      (南中国・台湾・沖縄)

 染井吉野は江戸時代後期から「吉野桜」の名で江戸郊外染井村から江戸に出荷されたが、明治になってから吉野山の桜と区別して染井吉野と呼ばれるようになった。全国数万本の染井吉野は全て1本の原木から接木で殖やしたクローンである。そのせいか寿命が百年を越えることはなく短命である。その原木は江戸彼岸から桜色を、大島桜から大きな花弁をもらった交配種と言われているが、江戸彼岸の突然変異という説もある。

 信州高遠城址を飾る彼岸桜または小彼岸桜は、江戸彼岸と豆桜の交配種で、江戸時代初期から栽培されてきた。寒緋桜から紅い花と早咲きを、山桜または大島桜から日本の温暖地への適応を受け継いで、寒桜と河津桜が生まれた。大島桜を出自とする栽培種を里桜と総称する。一重八重を含む多数の品種が含まれるが、晩春に咲く八重桜の多くは里桜である。

 これで少し頭の整理ができたようだ。             以上