新型コロナウイルス対策で科学の立場から公に意見を述べて、国民の絶大な信頼を勝ち取っている国を代表する科学者が外国には居る。日本では医学博士尾身茂 感染症対策分科会長がそれに近いが、国民の絶大な信頼とは言い兼ねる。私は信頼しているが、氏は政治家に気を遣い菅首相と違う意見を述べることを避ける。だが注意深く表現を聞くと「ぐずぐずしないで、GoToトラベルは早く止めて緊急事態宣言を出しなさい」と言いたいのを堪えていたのが分かった。私が氏を信頼しているのは、この「言わない本音」の部分であり、発言される建前ではない。だから国民は氏を政治家と同列に見て、氏は国民の絶大な信頼を得ることは出来ないでいる。
それでも「尾身氏は最近、分科会長よりも単なる医師になってしまった」(政治を考えないで医師としての意見を言う)と政治家が発言したのを聞いた。氏が本音で発言すれば国民は信頼を置くだろうが、直ぐクビになって、もっと政治的な医師が後を継ぐのは目に見えている。それなら本音を抑えた方が、相対的にはより国のため、と氏は考えているに違いない。悪いのは野党に隙を見せられない与党政治家と、政府を傷付けることを使命と勘違いしている野党と、そういう政治家しか選べない国民だ。
米国には国民に信頼された専門家のトップが居る。Anthony Fauci(ファウチ)博士(1940-)だ。覚えて置いて損は無い。当然Trump前大統領とは激しく対立し虐げられ遠ざけられた。Biden新大統領で7人目の大統領に助言する立場の継続が決まって「助かった!!(Liberating Feeling) 科学の話をしても良くなった(Let the Science Speak)」と言った。博士の物静かな語りは国民を信頼させたが、Trump支持者からは「クビにせよ」と悪者扱いだった。博士がウイルスを創り出し、Bill GatesやGeorge Soros(投資家)とつるんでワクチンで利益を得ようとしているという陰謀論で、博士の家族には死の脅迫があった。その博士をNew York Timesが独占面会した。1月24日の記事が以下のようで、すこぶる面白かった。
感染がNew Yorkを中心に拡がり始めた危機感をTrump大統領に伝えた時以降何度も、「深刻です」「そんなに悪くないだろう?」と、悪くないと私Fauciを説得した。「抑制策を考えて呉れ」とは一度も言われなかった。Trump氏は取り巻きから「この薬は効く」と聞くと信じた。「薬の効果は治験で確かめて...」と言い掛けると「いやいやこれは効く」と。
Trump氏が大統領になって以降、大統領は私Fauciのことをほとんど知らなかった。2019/9に初めて会った。インフルの何かで大統領令に署名する時に、後で白衣で立っているよう求められた。2020年初頭からは新型コロナウイルスに関して頻繁にWhite Houseを訪れた。
新型コロナの記者会見で大統領が楽観論を述べた時、或る記者が「Dr. Fauciの意見は?」と問うた。私は仕方なく「それは違うと思う」と言った。言わなければ私が認めたことになる。以降USA Todayに私の主張はほとんど間違っているという論文が掲載され、私をマスコミに出すか否かを広報室が決めるようになった。大統領からは「なぜ君はそんなにNegativeなんだ。もっとPositiveになれ」と言われた。妻と家族に脅迫が迫り、Web上では「大統領のチャンスを潰すコイツを除外せねば。」という右派の書き込みが横溢した。一度は郵便封筒を開けて白い粉を浴びてしまった。直ぐ警備員を呼んだ。幸い毒薬ではなかったが、家族は取り乱した。それでも自分が居た方が幾らかでも世の為と思ったから辞めなかった。
(「今後4年間Biden大統領と何をするか?」との問いに)私は一生かけて感染症と闘って来た。(スペイン風邪以来)今102年ぶりの大きな感染症と闘っている。それを握り潰すまで、私は付加価値の高い情報を提供していく。その後も、HIV(AIDS)はまだ未解決だ。インフル、マラリア、結核との闘いも継続して行く。(「Trump氏は何万人何十万人も死なせたことにならないか?」との問いに、私松下と違って調子に乗ることなく)よく問われるが、答えると悪口になるから答えられない。
Fauci博士は科学者の鑑で、主張は常に科学的で正しい。対立する他人を悪し様に言わない人格も立派だ。だから尊敬している。 以上