雨を承知で夫婦で信州の花見に出かけた。今年は桜の開花が半月近く早い。予報では長引く雨が上がってからでは遅いと判断した。中央高速で小仏峠に掛かると、若葉色の山々を満開の山桜が彩っている。古城岩殿山のソメイヨシノは満開だったが、大月ICの近くではもう散っていた。
須玉ICで下りると、七里ケ岩の絶壁をヤシュウの赤紫の花が飾っている。七里ケ岩をトンネルで抜けて北杜市武川の実相寺に向かう。日本武尊お手植え伝説の神代桜は、既に葉桜ながらまだ花を見ることが出来た。この樹から毎年元気を貰って1年間を過ごしている。数年前の養生工事以来樹勢が回復してきて良かった。「神代桜の子桜」も樹齢既に数十年、幹は直径60cmにもなろうか。この境内には身延山の枝垂桜の子桜や、福島県三春町の滝桜の子桜も元気に育っていて頼もしい。桜の花弁が地面に絨毯のように敷き詰められている風景を美しいと感じてカメラに収めた。境内に咲き揃ったチューリップと菜の花を近景に、桜を中景にした写真を撮ってみた。実相寺の奥に、数十年前の開拓者が植えたという数百米のソメイヨシノの並木があり、丁度満開と思われたが、ソメイヨシノにはあまり興味が無い我々は、七里ケ岩の稜線の県道17号線を西に急いだ。
北杜市小淵沢神田の樹齢400年の独立樹、大糸桜に着いた。遠望してまだ早過ぎたかと思ったほど花が少なかったが、白い合羽で雨の中を交通整理中の職員に伺ったら前日前々日が一番綺麗だったと言う。二三年前まで桜のすぐそばまで車を入れていたが、近年は駐車場を整備して数百米以内には車を入れないように規制している。結構なことだ。それにしても樹勢の衰えは著しい。20年前の写真とは段違いだ。全体的に花の数が少なく、枝の先の方には全く花が付いていない。再び職員に尋ねると「来年から養生工事を始めます」とのことだった。平成の大合併で小淵沢町が北杜市となり、養生の予算が取れるようになったのだとしたら嬉しいことだ。
泉ラインに出て八ヶ岳山麓を反時計回りに行く。山麓はまだコブシの季節だ。コブシの大木があちこちで年に一度の自己主張をしている。泉ラインには角館出身の秋田美人歌手藤あや子の店がある。極めて多才で、絵、書、陶芸なども手がけ即売している。私が天童よしみを褒めてもワイフは何も言わないが、藤あや子に関心を示すとご機嫌が悪い。だが私には或る目的があった。二三年前に立ち寄った時に、ワイフの白い目を圧して藤あや子直筆の色紙を買った。買う時は愚かにも気付かなかったが、帰宅して改めて見ると「愛 それは欠けがえのないもの」と書いてあった。そりゃ誤字だよと葉書を書いた。今回見たら色紙のレパートリから消えていた。今回再びワイフの顰蹙を買いながら、小型F3のカンバスに「彩」というサイン入りのバラの絵を買った。本人直筆の絵の複製だと思う。
八ヶ岳を登り、俳優柳生博氏と、NHK園芸番組で有名になった長男真吾氏が経営する八ヶ岳倶楽部に立ち寄った。鎌倉と蓼科に居を持つ某ご夫婦がここで開催する「無垢」というブランドのニット製品の即売会の案内を貰っていた。ワイフは20年も前から愛用している。上得意のワイフの顔はご夫婦とも覚えており、その好意に応える買物をしたから、藤あや子の絵を買った汚点は帳消しとなった。今回は構内に柳生両氏の姿を見かけることはなかったが、雨の林の中にカタクリの花が多数可憐に咲いていた。
最後に南信州は高遠城の「天下一の桜」のコヒガンザクラを目指した。中央高速で諏訪から岡谷を回り天竜川沿いに伊那まで南下する間、沿道には満開の桜が多く、花見街道の趣だった。高遠城では千五百本が全て同一種のため、一斉に咲くから見事だが、満開に出会うのが難しい。雨のお蔭で個人客は少なかったが、天候によらず予定通りに来る観光バスが大挙して来ており、様々なバッジを付けた観光客で城内は混雑していた。ソメイヨシノよりもやや小ぶりでピンクが濃い花が城山一帯どちらを見ても満開で見事だった。「天下一の桜」は認めざるを得ない。堀を渡る橋の先に小さな城門があって桜に囲まれている構図がよく写真などで紹介されている。来年のNHK大河ドラマは高遠城の保科氏と決まったそうだ。
首都圏よりやや遅いが、例年より異常に早い信州の春を満喫した。以上