7月21日にSpace Shuttle Atlantisが着陸した。1981年以来通算135回目の飛行を終えてSpace Shuttleは全て引退した。Space Shuttleは金食い虫の失敗作だったので、Obama大統領は苦渋の決断で中止したに違いないと昨年8月に「うつせみ」に書いたが、この機会に付言したい。
Space Shuttleの年間費用は$1B(B=10億)と理解していたが、打ち上げ毎に$1B近く掛ったという。その後継として使い捨て方式のConstellation Projectが進んでいたが、Obama大統領はこれを中断し、民間の開発に任せる決断をした。Space ShuttleもConstellationも細かい所までNASAが決めて委託先にはコスト+適正利益率を払った。コストが上がるほど委託先の利益も大きくなるから、Space ShuttleもConstellationもコスト低減の意識が働かず、大変高いものが出来た。その悪習を断つためにObama政権は両Projectを中断し、新方式を採ったというのが本質だと理解した。
新方式では、NASAが開発予算を持つことは変わらないが、必要外部仕様を示して民間に設計は任せ、入札で委託先を決める。Constellationは384Mm(Mm=100万メートル)先の月までの往復を仕様としていたが、それも緩めて、0.4Mm上空の宇宙ステーションまでの往復で良いとした。宇宙ロケットはみな同じように私は愚かにも感じていたが、低高度の宇宙ステーションや0.56MmのHubble宇宙望遠鏡まで、あるいは35.8Mm先の静止衛星まで、月まで、惑星まで、で全然コストが違うものらしい。そう言われてみればごもっともだ。NASAは低高度は民間に任せ、火星探査など次の目標への研究開発に注力するという考えだ。実際NASAの予算は増加している。
低高度については、委託先がコストを下げなければ入札で負けるし、入札後に下げれば委託先の儲けになる仕組みでコスト低減を図ろうということだ。今10社ほどが、NASAの開発費とSpace Shuttle引退後のNASAからの打ち上げ依頼の注文を狙って開発中だ。一番先行しているのが、Space X社だ。PayPal社を成功させ電気自動車を開発中のTesla Motors社のCEO/CTOでもあるElon Musk氏がSpace X社のCEOをも務めている。LAX空港近くの会社でFalcon 9というロケットでDragonというCapsule兼宇宙船を打ち上げる計画を着々と進め、1回の打ち上げは$25M(M=百万)と言っている。それを追っているのがDullesのOrbital Science社だと言われている。その他Boeing社とLockheed & Martin社の合弁会社は経験に裏づけされた品質で$100Mで打ち上げるとPRしている。Virgin Groupや、Amazon創立者Jeff Bezos氏の会社も参入を狙っている。NASA以外に品質の高い宇宙船の開発は出来ないはずという元宇宙飛行士や専門家の反対論にも拘らず、民間企業は着実に歩を進めている。Obama大統領は大きな賭けをした。
Space X社は酸化皮膜アルミのボルトを自作して、従来$15だったものを$0.3に下げ、再突入時の炭素系断熱材も唯一の供給源を離れて自作でコストを低減した。宇宙船のエンジンの噴出口を従来とは異なる設計に変えてコストを格段に下げた。但しこれらの品質保証はこれからの課題だ。
宇宙ステーションに代わる安価な宇宙基地も何社かで開発中だ。無重力状態での材料や薬品などの合成に商機があるという説もあるが、私はコスト面で当分無理だろうと思う。当面はNASAの需要と宇宙観光が収入源になろう。ロシアは単価$30-50MでSoyuzで2001年以降既に6人延7人(1人が2回)を宇宙空間の観光に連れて行っている。費用が1人$1-5Mに下がれば世界中から金持ちの物好きが待ち行列を作るという皮算用もある。一度でも事故を起こしたら宇宙観光需要はゼロになると警戒する人も居る。
日米半導体摩擦が最高潮の頃の東芝の記者会見で或る外人記者が「半導体も宇宙もやっている東芝には、宇宙で半導体を製造する戦略があるのではないか」ととぼけた質問をした。担当の川西副社長は「半導体摩擦を回避する素晴らしいアイディアを有難う」と真面目な顔で冗談を返した。
民間に出来ることは民間にやらせるという米政府の考え方に注目する必要がある。政府がふんだんに予算をとって狙う目標のレベルから、低高度の宇宙往復は外れたという考え方だ。金食い虫の退治という狙いがあったにせよ、米民主党の政権でもこういう施策を進めるから驚く。 以上