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うつせみ
2001年10月28日

             Silicon Valley

 Stanford大学の某氏から骨太の本を頂き、苦労して読了した。
「The Silicon Valley Edge; Chong-Moon Lee, William Miller, Marg-uerite Hancock & Henry Rowen; Stanford Univ. Press; 2000; pp424」
少なくとも私には「Silicon Valley解体新書」であった。Stanford大経営学科の研究グループが、Hearingを重ねる社会科学的手法を駆使してSV = Silicon Valleyを分析し、またSVの各界を代表する著名者の寄稿を集めた本で、バブル崩壊以前に書かれているにも拘わらずあまりズレがない。

 少々読み応えがあり過ぎるが、次の人には必読の書としよう。
(1)SVに関連した仕事を持つ人
(2)Venture事業に関わる人
(3)SVまたはVentureの仕組みや歴史に興味のある人
(4)Business Modelに興味がある人
最初のVB = Venture BusinessだったFairchild Semiconductorの歴史、最初の本格的VC = Venture CapitalのKleiner Perkins Caufield & Byersの生い立ち、SVのコミュニティとしての経緯など、歴史が面白い。またVC, Lawyers, Head Hunters, Accountants, ConsultantsのようなインフラがSVの特徴だそうで、各々に1章を割いた解説も貴重である。

 何がSVを今日たらしめたか? 一番の要因はインフラを含む人間ネットワークが網の目のように発達していて、VBに最適化しているからだという。それを求めて世界中のタレントが集中し、学卒の優秀な人ほどSVで働きたがる。その中でStanford大の果たしてきた役割も大きいという。だが人口集中によって物価、特に不動産価格が高騰して住みにくくなり、低熟練度低コスト業務を先頭にSVから脱出しているが、米国内外でSVを真似る動きがあるにも拘わらず、上記ネットワークが健全な限りSVのメリットはゆるぎそうもないそうだ。

 SVは、'50-'60のDefenceブームで生まれ、'60-'70のIC、'80頃のPC、'90頃のInternetと、常に直前のブームの隣接領域に新たなブームを見出して来た。そろそろInternetの次が見えてくるはずだが見えないなあ。

 そもそも起業リスクには3種類あって、(1)技術リスク(癌治療のように実現可能なら事業成功確率大)、(2)市場リスク(Amazonのように技術的には実現可能でも市場が開けるか?)(3)販売リスク(技術と市場に心配がなくても売りきれるか?) VCもVBもこの事業のリスクはどこにあるかを意識して当たる必要がある。(1)(2)(3)の順に投下投資額が大きくなるので、(3)の起業にVCは普通は投資しないとのこと。

 Table 6.1という大きな対照表があり、中小企業主、伝統的企業人、SV企業人、のそれぞれが典型的に目指す企業コンセプト、経営、社外関係などの対比が秀逸だ。SV企業人は「世界を変える」ことを目指し、会社を必ずしも自ら支配せずとも会社が市場を支配することを求め、即戦力を求めて雇った社員に夢を信じさせ、技術の買収に躊躇せず、巨大なリスクを恐れずスピードで市場をとることを指向するという。SV企業人には4種類あって、(1)YahooのYang / Filoの如くVision実現のためには経営は他人に任せてもいいとするVisioneer(我社会長Brian Doughertyもそうかな)、(2)CiscoのChambersのようにやたらに買収を重ねる中から事業を組み立てるAcquisition Entrepreneur、(3)SunのMcNealyの如く同一会社を次々に変貌させるTransformational Entrepreneur、(4)Jim Clarkのように次々と会社を立てて移って行くSerial Entrepreneurがあるそうだ。

 起業家から聞き集めた起業成功要因ベスト4が第10章にある。(1)Right product, (2)Right team, (3)Source of capital, (4)Appro-priate infrastructure(提携企業の存在、起業の自由度、大学の存在)。

 一方SV繁栄の理由10個条は次の通り。(1)諸制度が新事業向き、(2)知識密度大、(3)良質な人材、(4)結果重視で年齢や国籍無視、(5)リスクに報い失敗を許容、(6)知識交換ネットワーク、(7)大学・研究所が協力、(8)企業・政府・NPOの協力、(9)優れた生活環境、(10)事業支援インフラ。

 学ぶことの多い本としてご関心のある方に推薦したい。    以上