4月20日に「うつせみ:ゆっくり地震」をお届けした。今回の記載対象も同じものだ。ただ10月20日に聴講した講義で東大地震研長小原一成教授は、スロー地震と言われたからそれに従う。教授はスロー地震の発見者であり研究の第一人者で、その功績で2017年の地震学会賞を得られた。
地震計には、トラックが通ったとか常にノイズが小さな地震のように記録されているそうだ。だから従来見逃されて来たが、複数の近傍の地震計が同じノイズ状波形を記録していることを教授が発見した。その波形の包絡線を比較すると類似波形が時間差を以て到着しており、震源が特定できる地震波形であることが分かり、スロー地震と総称したという。但し通常の地震が岩石の破壊による高周波を含むのに対して、スロー地震は数十秒に1サイクル(0.02Hz)から数Hzの低周波だけだ。現在はPlate型のスロー地震の研究が進んでいるが、地殻の弱い点=活断層が部分的に破壊される直下型地震の周囲にもスロー地震がありそうだという。
日本の周辺では、海洋Plateがより軽い陸Plateの下に年間数cmのオーダで沈み込んでいる。両Plateがせめぎ合う斜めの断層には、@まだあまり固着していない浅い部分、A強く押されて固着している中頃の部分、B海洋Plateが自重で落ちていくために圧縮圧力が弱まる深い部分とがあるそうだ。このA固着部分が百年に1度破壊されて巨大地震が発生するが、それより@浅い部分とB深い部分では、年中スロー地震が起こっているという。フィリッピンPlateがアジアPlateの下に潜り込む南海トラフで言えば、@浅部のスロー地震は四国や紀伊半島の南端から100km以上南の沈み込み口の深さ10km辺りで起こり、B深部のスロー地震は、佐田岬から四国山脈、紀伊半島日ノ岬から紀伊山地・伊勢・三河に至る内陸の深さ100km周辺で起こる。@浅部とB深部で起こるスロー地震は、場所は異なるが振動の性質は酷似しているという。2つのスロー地震帯に挟まれた土佐湾・熊野灘・遠州灘の深さ50km辺りが巨大地震帯だそうだ。
スロー地震は性質によって4つに分類されるという。巨大地震と対比して次表に示す。但しSSE=Slow Slip Event、ETS=Episodic Tremor & Slip=時々起こる揺れとSlip。2種のSSEは地震計では捉えられないから、国土地理院が全国に配置したGPS式の電子三角点で計る。
呼称/分類 | 発生間隔 | 継続時間 | 周波数Hz | |
長期的SSE | 数年 | 数か月ー数年 | ||
ETS | 短期的SSE | 数か月 | 2日―数日 | |
超低周波地震 | 随時 | 0.01-0.1 | ||
低周波振動 | 随時 | 2-8 | ||
巨大地震 | 100年以上 | 数秒−数十秒 | 広帯域 |
スロー地震が注目されているのは、巨大地震の隣接領域から類似の原理で発生する現象で、しかも頻度が高いから、(1)巨大地震のメカニズムを高頻度でシミュレーションしたことになるのではないか、また(2)スロー地震の推移から巨大地震が予知できるのではないか、という観点だと。スロー地震が頻発すると、巨大地震に至るはずの応力が緩やかに解消されるのではないかと素人は思いがちだが、実は逆だそうだ。つまりスロー地震で応力が解消された分、残った固着域の応力が増して、巨大地震を誘起するものらしい。最近では千葉沖でSSEと小地震が相次いで起こった。
私は既報のように、毎月256円の有料メルマガの地震予報を2種類emailで毎週受けている。ボヤッとした時間的場所的分解能だが、私は信頼している。しかし東大地震研の2人の教授に尋ねたところ、首を振るばかりだった。その1種(a)は、国土地理院の電子三角点の毎週の変化を見て警報を出している。他の1種(b)は、地盤の圧力がPiezo電気を生じ電離層に影響するという原理で警報を出している。東京に関する警報は、(a)は「2月頃まで注意。震度5以上の可能性が非常に大」と言っており、一方(b)は「向こう1週間は、千葉沖で地震があるものの、屋内で揺れを感じる程度以上にはならない」と予報している。スロー地震と(a)とは近い。(a)を素人芸だと無視しない方が良いのではないかと思うのだが。 以上