ミュージカル映画South Pacific南太平洋をご存知だろうか。ミドシシシシドというメロディーにのせてBali Haiという南太平洋上の理想郷の島の名が歌い上げられる。Happy Talkとか、Younger than Sprintimeなど十数曲が懐かしい。昔どこかで見た映画だがすっかり忘れていた。最近仏領Polynesiaを訪れた時に、そこがSouth Pacificのモデルだと聞いた。そこでAmazonから映画のDVDを買って見たら記憶が戻り、若き日のロマン主義とPolynesiaの思い出がないまぜとなって心を揺すぶった。
1948年のPulitzerフィクション部門の賞を貰った短編文芸をもとに、1949年からBroadway Musicalとして5年間も上演され、1950年のPulitzer演劇部門の受賞作品となった。その人気を背景に1958年に映画化され、そのサウンドトラックは世界的なヒットとなった。英国では1960年前後に連続70週を含む115週でヒットチャート首位を占めたという。
第2次大戦中に、米軍が駐留した仏領Polynesiaの島々と、日本軍が駐留した隣接の島々が舞台だ。仏本国が独に占領されて力の空白が生じることを恐れた米軍が仏領Polynesiaに駐留したのは事実で、ロマンスもあり米人系の子供が増えたことも史実だが、日本軍が近くまで迫ったとは聞いていない。大戦に勝利して我が世の春を謳歌していた頃のHollywood映画だから、戦争の厳しさや悲惨さはなく、ゆとりすらある楽しげな戦場がある。双方が戦闘機も爆撃機も持っているのに爆撃も空中戦も無い。Bali Hai島には、どちらの軍隊も駐留していないのも不思議だ。しかし平和な時代の娯楽映画だから細かいことを言っても仕方ない。
米前線海軍病院看護婦の美人少尉と、島の農場主の中年仏人が恋に落ちる。米特務機関の中尉に目をつけた現地の中年女性Bloody Maryは、美人の娘に娶わせようとする。娘を白人と結婚させることはPolynesia人の夢なのだ。Bali Hai島で中尉は娘に会い熱愛の時を過ごすが、母親に婿になれと迫られると、Polynesia人との結婚に踏み切れず中尉は断る。看護少尉も、農場主には2人の子供が居て、子供は可愛いが農場主が死別した前妻がPolynesia人であったことを知り、ショックを受けて農場主を避ける。半世紀後の今では考え難いが、Polynesia人と通じることは不道徳のように中尉も看護少尉も感じたのだ。それが映画の観客である一般国民の感覚でもあったことになる。当時Texas大Football Teamは、黒人選手の居る相手には名誉ある不戦敗を重ねていた。私も米大学院学生だった1962年に、来るべきダンスパーティーの相手にと紹介された女性が某近隣国人だったことにショックを食らった覚えがある。そういう時代だったのだ。
農場主は、恋の成就が優先と米軍の危険な協力要請を一度は断ったが、失恋で心を決め、一方中尉は、生還できたらPolynesiaに留まろうと変心したが、2人で日本軍占領の島に潜入し、日本軍の動向を密かに無線で連絡する。その情報で米軍は均衡を打破したので日本軍は撤退し、米軍は上陸する。しかし中尉は日本軍戦闘機の機銃で戦死してしまう。中尉の戦死を知り農場主の生死が不明とあって看護少尉は苦しみ、農場主が生還したら結婚しようと決心した所に農場主が帰ってきてHappy Endとなる。
Storyもさることながら、美男美女が美しく歌い上げる歌がこの映画の魅力だ。歌の好きな方にはお奨めだ。但し歌声は全て吹き替えだと知って驚いた。なるほど天は二物を与えずか。母親Bloody Mary役を演じたNew York生まれでJuilliard出身の黒人歌手Juanita Hallは、舞台で同じ役を演じ歌ったが、彼女すら歌は吹き替えられたという。仏領Polynesiaの見覚えある風景が出るかと期待したが無かった。設定は仏領Polynesiaだが、撮影はHawaiiのKauai島で行ったという。後に2001年にTV用の映画が別の配役で制作されたが、あまり人気を得なかった。この映画は大部分をAustraliaで、一部を仏領PolynesiaのMoorea島で撮影したという。
仏領PolynesiaのBora Bora島にBloody Mary'sという名の1979年創立の有名レストランがあって、Charlton Heston, Dianna Ross, 島田陽子を初め有名人が多数来店したことが看板に誇らしく書いてあった。なぜBloody Maryなのかと思ったが、そういう因縁だったのか。 以上