iPhone/iPadを使いこんでいるうちに、Mac、iPod、iPhone、iPadと4つも成功を続けているApple社CEOのSteve Jobsの頭の中を覗いてみたくなった。いずれも技術的には業界初とか真似できないレベルとかではなく、仕様さえ与えられればマトモなメーカなら作れる商品だ。すごい所は、その時点での優れた技術をかき集めて、顧客にピッタリくる商品に仕上げている点だ。同様な感触を私はDynabookの初期に感じた。iPod→iPhone→iPadは積上げ方式の設計で、決して新製品開発とは言えない。検索してみて、次の本が題名から見てその謎解きをしてくれるのではないかと思った。
Innovation Secrets of Steve Jobs, Carmine Gallo, 2011
「読者もこの点に注意すればInnovationができる」という説教調が多く煩わしかったが、事実や経緯は充分把握できた。その結果、筆者の説教の方向とは異なるが、Jobsは偉大な芸術家に近いと私は受け取った。
知らなかったのだが、JobsはSilicon Valleyで里親に育てられている。実母は未婚の女子学生だというから、優秀なDNAを貰ったのであろう。Oregon州Reed大に進学するが、勉学の意義が判らず一学期で中退する。しかしその後もペン習字クラスに興味を持って聴講し、後にフォントを自ら作ってMacの特徴とした時に役立ったという。高校の先輩Steve Wozniakと2人で自宅の空いた寝室で1976年に起業し、個人で持てるコンピュータの開発普及を目指した。Reed大の友人と瞑想にふけったApple Orchardから社名を採った。当時から、世界を変える大志を抱いて今日に至る。
AppleTに続くAppleUが成功して会社が大きくなると、取締役会は組織的な会社 への脱皮を望んだ。Pepsiの社長だったJohn SculleyをJobsは「残りの人生で砂糖水を売るのか? 世の中を変えようじゃないか?」と口説き1983年にAppleのCEOに招聘した。しかし天才Jobsと組織人Sculleyがうまく行くはずはなく、取締役会はSculleyに与して1985年にJobsを追い出した。当初新生Appleは好調に見えたが徐々に経営は悪化し倒産の淵を見た。1993年取締役会はSculleyをクビにし、1996年にはJobsを CEOに復帰させた。以来今日までJobsはiPod以降の成功を実現しAppleの時価総額を年率34%で成長させ、Microsoftを追い抜くまでになった。浪人中にJobsはアニメ映画会社Pixar Animation Studiosを買収・育成し今までに22のAcademyを取る実績を上げ、2006年にはDisneyに売却した。その結果Jobsは Disneyの大株主として役員を務めている。
破産の淵のAppleがJobsを呼び戻して間もなく流し始めたCMを是非You-tubeで見るように本書は勧めている。Appleを復活させた原動力はここにあったのかと私も心を打たれた。現状(Status Quo)を変えることを恐れず世界を変えようとした賢い狂人のモノクロ写真が次々に出て、People crazy enough to think they can change the world are the ones who do.「世界を変えられると信じる狂人が世界を変える」と結び、最後に少女が目を開けて前途の可能性を見る。Appleのあり様を明示したこのCMがApple従業員とApple贔屓の顧客を奮い立たせたという。AppleはありきたりのPCを作るIBMなどとは違うんだ、Appleの顧客は違うんだ、顧客の創造性を伸ばして世界を変える会社であり、それを希求する顧客なんだと。
http://www.youtube.com/watch?v=XUfH-BEBMoY
Jobsは稀代の芸術家だ。指揮者Karajanを連想させる。合意形成など一顧だにせず、他人の忠言もあまり聞かず、顧客の声すら聞かず、独りで芸術作品を描き出す。Karajanは「どんな音楽にしましょうか?」などと観客に尋ねたりはしない。Jobsの芸術の価値観は創業以来全くブレず、顧客の創造性と生産性を高めて喜ばれ、それを積み重ねて世界を変えることにある。その芸術作品が悉くヒットしているのはやはり芸術家の才能だ。顧客アンケートを行ったり企画会議をしたら、iPadの仕様にはならない。
既存の箱売り指向の小売店に飽き足らず、Jobsは素人ながら売上より顧客支援と満足を求めたApple Storeを創設し大成功を収めた。経営も商品も単純化・明確化して集中注力することを身上にしている。
長年避けて通って来たMacを使ってみようかと思うようになった。以上