正月に受取った同窓会誌1月号に、国立天文台の家正則教授が(私には大変)興味深い記事を寄稿しておられた。講演記録とあったが私は講演を聞いていない。多分何か支障があって行けなかったに違いない。教授は1949年生まれ、天文学で東京大理学博士、1993年に現職。HawaiiはMauna Kea山 4,205m の山頂にある国立天文台すばる望遠鏡(標高4,139m。外国に国有財産を持つことに異論があったと聞く。地代は年間1ドル)の構想段階から30年間見て来た方だ。2014年から近辺に建設が始まる国際次世代超大型望遠鏡TMT=Thirty Meter Telescopeにも関与しておられると。
すばる望遠鏡は1991年から建設が始まり、400億円の工費で1999年に完成したが、その後も改良が重ねられている。お隣のKeck(寄付した人の名)望遠鏡を見学した時に「すばる」も間近に見えた。Keckで私が"Oh, this telescope is certainly bigger than my telescope !"と言ったら周囲の米人20名ほどが爆笑してくれた。主鏡はKeckが10m、「すばる」が8.2mだ。後者はConing社の熱膨張率がゼロに近いガラスで1辺1mの6角形を44枚制作して貰い、溶接したとのこと。但し個々の膨張率が1億分の1のレベルでバラツキがあるので、コンピュータで全ての組合せの最適解を求めようとしたが、宇宙の寿命より遥かに長い計算時間が必要と判り、ランダムに10万通りの組合せを計算してベスト解を求め、変形量を10分の1に抑えたという。それを凸型の煉瓦の台に載せて加熱し、垂れ下がらせて凹面鏡の形を作り、石灰石の鉱山跡に持ち込んで4年掛けて回転双曲面に磨き上げたとか。「すばる」の主鏡は能動光学を備えていて、261本の可動支持棒Actuatorが望遠鏡の向きで変わる主鏡の重力歪を修正しているとか。
「すばる」建設前に、より小さい実験装置で能動光学を実験中に、常識に反して夜間に測定精度が低下する現象を発見し、その原因は主鏡が冷え遅れて一種の陽炎が立つからだと世界で初めて発見したという。今では世界中の主要望遠鏡は全て夜間の温度を毎日予想してそれよりやや低い温度に昼間から冷房しておくようになっているとのこと。
1999年に「すばる」とHubble宇宙望遠鏡の腕比べがあり、40億光年先の銀河団を約1時間の露光で比較した所、共に24等星まで写っていて引き分けになったそうだ。この銀河団では重力レンズ効果(質量が光を曲げるため質量がレンズになる)で背後の銀河が歪んで見えたことから、そういう効果を及ぼす質量分布つまり暗黒物質の分布が判ったという。
宇宙は拡大しているので、遠い銀河は速く遠ざかり、観測光の波長が長く見える「赤色偏移」が観測される。「すばる」は多数の赤色偏移の強い銀河を発見してきたが、2002年には赤色偏移7.0(特定観測波長が1+7.0=8倍の波長になる)の銀河を発見した。宇宙の寿命137億年に対して128.8億光年先の、128.8億年前の銀河の光を見たという。2009年には赤色偏移1位から20位まで全て日本人が「すばる」で発見したという。その後米国が昨年10月に赤色偏移7.51の銀河を発見して世界記録を奪還したそうだ。
百億年掛ってやって来た光が、何百マイクロ秒で通過する大気の揺らぎで乱れる。それを補償する。観測対象に近い明るい星をガイド星として、または高出力レーザで高度100kmのナトリウム原子を励起し光らせて疑似ガイド星を作り出し、それらが一定の姿で観測できるように可変形鏡を1ミリ秒単位で動かす「補償光学装置」で「すばる」の分解能は1桁上がったと。
同じくMauna Keaに国際協力で2014年着工2021年完工予定のTMT望遠鏡は、文字通り30mの主鏡を備える。総工費1500億円を米国が36%、日本が25%、カナダ19%、中国とインドが各10%負担し、それに見合う機器部品の製作を担当する。TMTでは赤色遷移 17まで、134.4億年前まで見られるようになり、遠くの銀河の赤色遷移を精密に多数観測できるから、宇宙の過去の時間軸上の拡大速度、つまり拡大の時間経過を直接観測できることが期待されているそうだ。これは宇宙を拡大させている「暗黒エネルギー」の解明の一助にもなるという。また上述の重力レンズ効果から「暗黒物質」の分布を正確に計算すれば、暗黒物質の解明にも役立つという。
"My Telescope"は口径20cmだ。残念ながらKeckより確かに小さい。以上