11月24日のNHK TVは、東京大学物理工学の香取秀俊教授(1964-)が開発した光格子時計の高精度を活用して、東京スカイツリーの下と上で時計の進み方が異なることを正確に計測する計画を開始するというニュースを報じた。一般相対性理論によれば、重力が弱い場所では時間は速く進むという。重力は地球の中心からの距離の2乗に比例するから、数百米の高さでは距離は 10^(-4) ほど増加し、その重力は 2 x 10^(-4)ほど弱まる。地上の観測地点よりも、上では時間が僅かに速く進むように見える。
既にその証明は1959年にHarvard大が成功していて、光が遠方の星(Sirius)の重力場の中を進むと波長が長くなるRedshiftが起こることが示された。重力場を通らない光に比べて波長が長くなるということは、遠方の重力場では時間経過が遅くなっていることを意味するとされた。
香取教授は、もっと直接的に2つの高精度時計を比べてみようとしている。教授が開発した時計の正確さのデモでもある。既に教授の研究室がある東大本郷と、兼任で主任研究員を務める和光市の理研研究室に高精度時計を置いて、3日間で生じた時間差約 4 x 10^(-10)秒から標高差を求める測定を11回繰り返して平均すると、5cmの精度で国土地理院の標高差15mに合致したという。
すぐ気付くことは、@重力は一定ではなく岩石の組成などによって場所によって異なり、とても本郷と和光が同じ重力とは仮定出来ないことだ。また、A伝統手法の標高測定は、電子三角点なら数cmの精度だが、研究室の標高なんて怪しい。更にB上記の 4 x 10^(-10)秒という時間差は、光が僅か12cmしか進めない短時間であるから、2つの時計が単純に時報を送り合ったのでは検出できないということだ。つまり和光の実験は、スカイツリーに備えての予備実験で、和光でこの位の測定が出来たのだからスカイツリーを使わせて、という論拠のために簡単に行ったものであろう。
スカイツリーなら@同一重力内で計れるし、A標高はともかく標高差は正確に測れる。但し10^(-10)秒のレベルだと、スカイツリーの鉄骨の万有引力が重力にどのくらい影響するかは要検討事項であろう。また地球の自転の遠心力も問題になりそうな気がする。
Bは、話に聞いてからずっと不思議に思っていたが、やっと分かった。Strontiumの振動の波の数を数えている。上下の時計をスタート、ストップさせる間隔さえ同一なら、上下の時計が同時に動く必要は無い。
光格子時計の名の由来は、Laser光線を縦横に走らせて格子を作る構造から来ている。その格子の中に、絶対零度近くまで冷やしてほとんど熱運動をしなくなったStrontium原子を1つずつ数個置いて平均する。原子は光格子に閉じ込められて他の原子と衝突も出来ない。その状態でLaser光線を吸収する原子の共振振動数を測定して、2 x 10^(-18)の精度を実現し、宇宙開闢以来の138億年に1秒と狂わない時計を開発したという。
Wikiには、Gravitational Time Dilationという項目がある。Dilation=膨張という単語を「(時間の)遅れ」という意味に使うことを知った。公式が載っている。Td = 1 + gh/c^2 スカイツリーの数百米の標高差 h 程度では、重力加速度 g がほぼ一定で 9.8 m/s^2 (MKS単位系)としている。その時地上の観測者が数百米上の時計を見た時、時計が進む割合が Td である。標高差がもっと大きい場合は、g は h の関数 g(h) となり、g(h) を h で積分することになる。
g は高校で習った力学に頻繁に出て来た。質量 m の物体が地上の高さ h にあれば、その位置エネルギーは mgh と習ったアレだ。地表から数百米高くなった位では、地表と同じ g = 9.8 でよい。すると上式 Td の第2項は 5 x 10^(-14) 程度になる。これを上記の時計の精度 2 x 10^(-18) と対比すると1万倍違うから、充分精密な測定が出来そうだ。フルに3日間つまり 3 x 24 x 60 x 60 = 259,000 秒の測定をすれば、10^(-8) ほどの時間差が検出できるはずだ。これでも光がわずか 3m しか進めない。
実用面では、光ファイバで接続した光格子時計群は「量子三角点」になり、またマグマが重力を変化させるので火山予知にも使えると。 以上