東京スカイツリー(以下TST)が5月22日から一般公開される。物好きな私は建設途中から何度も押上駅に足を運び伸び行く写真を撮ってきた。
TSTはそもそも何のためなのか? 当初はデジタルTV放送に必要で、残念ながら間に合わないから東京タワーでつなぐという話だった。しかし放送電波を東京タワーから移すのは2013年1月だという。東京タワーで間に合ってるじゃないか、無駄遣いじゃないの、という気がしてくる。八王子郊外の我が家では、強力Booster付きのアンテナで家屋の隙間から東京タワーを狙っているが、TSTは方向が5度しか違わないから多分そのままでよい。しかしご近所を見ると、CATVのケーブルが入っている家や新設の永山中継局を狙ったアンテナが多く、東京タワーは少数派だから、TSTになっても関係無い。高層ビルが増えたから東京タワーでは陰が長くなり過ぎるとも聞いたが、高くしたら画期的に改善されるとも思えない。デジタル切替時にTSTが出来ていれば節約できたろうが、今となっては空しい。
東京タワーは1958年竣工だから半世紀以上経過している。当時花形だった案内嬢を務めたというワイフの同年代の友人が居る。コンピュータが無かった当時の設計は地震対策が不充分という説が以前からあった。それを実証するかのように東日本大震災ではアンテナ塔が曲がってしまった。
結局TSTは、(1)観光・商業事業を立ち上げたい東武鉄道と、(2)地域振興を望む地元と、(3)高いアンテナが欲しい放送局と、(4)大工事を受注したい建設会社(大林組)と、(5)世界一の塔を建てたい技術者の夢とで立ち上がったProjectであろう。困るのは東京タワーだ。無駄な気がする。
観光施設と割り切れば世界一の称号は重要だ。2011年11月に世界一高いタワーとしてGuinness認定を受けた。元々640m位までアンテナ塔を伸ばせる設計にしておいて、控え目に610mの計画だと公表した。1年近く先行した英社設計になる中国の広州テレビ塔が610mで出来上がった瞬間に、TSTはアンテナ塔を伸ばして634mにすると発表した。広州の設計変更を恐れたのであろう。既にDubaiには160階のビル636mの上にアンテナ塔を建てた828mがあるので、TSTが世界一を主張するには「自立式の」という形容詞が必要だ。TSTを上回るタワーの計画は各国で目白押しなので、世界一は十年も維持出来まいが、当分は世界一で客集めが出来る。展望台は350mに天望デッキ、450mに1周しながら1階分上る天望回廊がある。
先日TSTの設計の責任者でProject Managerを務めた日建設計の慶伊(けいい)技師長の講演を聞く機会があった。敷地は元々東武の操車場だから、長さ400mは良いが、川と東武線に挟まれた幅100mが極端に狭い。だから東京タワーやEiffel Towerのようなガッシリ足を広げた設計は有り得なかった。しかも地表から30mほどは粘土系の沖積層で、その下は80m位まで液状化現象を起こし兼ねない砂層・砂礫層だから、鉄骨・鉄筋コンクリート製の複雑な形状の3本の杭を65m〜130mも沈め、3辺を壁杭という板状の杭で固めた。タワーを鉄骨構造にした理由は、(1)開放的な外観、(2)コンクリートタワーより軽量で基礎への負担小、(3)足を広げられない条件下で軽量の方が横揺れに強い、(4)受風面積小で強風に強い、だという説明があった。但し中央にある直径8mの心柱は円筒状の鉄筋コンクリートなので、厳密にはハイブリッドだとのこと。五重塔に学んだ心柱は125mまでは鉄骨構造に固定され、それ以上は長さ1mの油ダンパで接続されていて、制振効果は約40%とか。なお心柱には非常階段が内蔵されている。
TSTは基礎は1辺70mの正三角形だが、高くなるにつれてロータリーエンジンのロータのような形に変化して円に近付き、高さ300m以上は真円になる。鉄骨は鋼管で、基礎に近い最大のものは直径23m、厚み10cmとのこと。それをトラックで運べる長さに細切れにして現場で溶接でつなぐ。工場ではそれに楕円形の穴を開け、斜めに分岐継手を差し込んで溶接する。その継手の先にトラスの鋼管を溶接する。こういう部材は、対称位置の部材は別としてほとんど同一のものが無い。CADに直結したディジタル切削・熔接が必須だ。とても東京タワーの時代には出来なかったことだ。
精密な組立模型キットを期待していたが無理かも知れない。 以上