英国民投票のEU離脱Brexitに次いで、再び大方の予想を覆し米大統領選ではDonald Trump氏が勝利した。総投票数では僅差でHillary Clinton氏が上回ったが。Brexitは「炭鉱のカナリア」だと言われたが、もう1羽のカナリアが倒れた。英国民に次いで米国民も誤った選択をしたと私は思っている。少しは米国を知っているつもりの私の予想が全く裏切られた。
ClintonとTrumpは、過去に例の無い不人気者同士とされてきた。個人的に付き合えば2人ともきっと楽しい良い人に違いないのだが。相手が不人気のTrumpでなければClintonは対抗できなかっただろうし、相手がClintonでなければTrumpも早々に失速していたはずだ。
Trumpの不人気は分かる。熱烈な信奉者も居るが、彼の直言を嫌う人の方が多いだろう。その直言は多分に彼の選挙戦略で、恐らくは本人すらも「Mexico国境にMexicoの費用でTrump Wallを築く」のは無理だと知っていたはずだ。しかしその直言のお蔭で注目を浴び選挙戦を勝ち抜いてきた。選挙が終わればもう少し常識的になるはずだ。
Clintonの不人気が私には不思議だった。唯一分かったのは「厳しいことを言ってもいいが、もう少し可愛く言わないと民衆には受けないよ」だった。選挙には男女とも愛嬌が必要だが、特に女性が男性に負けまいと片意地を張ると民衆受けしない。だがそれだけでは不人気を充分説明出来ないと考えて色々な米国通に尋ねた。偶々隣に来た外人に「もしかして米人ですか?」と聞いて疑問をぶつけたこともあった。@可愛さ論を否定する人は居なかったが、他に次のような原因があるんだなあと理解した。
A彼女は従来からのエリートや政府の延長線上にあり、Obama政権の継承者である。一般庶民を忘れている従来の政治に、庶民の1人である自分は大変不満だ。従来の政治を継承するClintonには期待できない。B大学の無償化とかTPPに反対とかを明確に直言していたBernie Sanders氏が民主党候補になってくれれば良かった。ClintonはMail問題を最初は全否定していた信用できない人だ。選挙戦略とSandersとの妥協でTPP反対と言い始めたが信用できない。直言のTrumpやSandersは信用できる。
@は浅薄な理由だがABは深刻だ。ABはClintonがTrumpに負けた理由であり、ClintonがSandersに苦戦した原因だ。TrumpやSandersの躍進をTrump現象と呼ぶことにしよう。Populistの躍進とも言える。通常は庶民の味方が左派で、体制派が右派と決まっているが、右派左派とは直角方向に二分して大衆迎合主義Populismがある。Trumpは、庶民の不満を掬い上げる左派の特徴と、国家主義=Nationalismという右派の特徴を備えた主張をした。思えば第1次世界大戦の敗戦で痛めつけられた独国民の不満に応え国家主義を高揚させたAdolf HitlerがPopulistのはしりだったのか。
今世界では、さほど深刻にはまだ至っていない日本も含めて全世界の先進国で、庶民の不満が鬱積している。低成長が続いているため、(a)庶民の生活が改善しない。少なくとも日米では実質低下している。(b)税収が上がらず庶民支援の予算が細っている。(c)景気高揚策として金持・大企業優遇の政策が行われたが、庶民へのTrickle-Down(滴り落ち)は限定的。(d)同じく景気高揚策の金融緩和は狙った消費拡大よりも不動産や株などの資産バブルに。(e)上記各項により格差が拡大。(f)経済の国際化によって企業の海外移転や安い輸入品が増えて先進国の製造業が寂れ、先進国の中下層の収入減に。(g)欧米先進国では移民・難民の波が押し寄せた。国家経済的には移民は悪くないが、庶民の生活を直撃した。
このため困窮の庶民に、(i)国際化に反対、(ii)移民・難民に反対、という国家主義が沸き起こり、また(iii)それらを推進・許容してきた既成政治・政治家への幻滅・反感。(iv)論より証拠で自分の生活の悪化。これらが原因となってTrump現象が生じている。Sanders氏の健闘、Brexit、仏・伊・西・独でのPopulism台頭、日本では共産党躍進などが同根の現象だ。今日本では、TPPと安保と原発に反対すれば選挙に勝てる。いずれも(福島以外では)まだ庶民の困窮からではなく不安から反対感情が生まれている点は、庶民が実際困窮している米国よりはまだましだ。 以上