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短編随筆シリーズ「うつせみ」より代表作 Photos of flowers, butterflies, stars, trips etc. '96電子出版の句集・業務記録

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うつせみ
2006年 4月15日
             Turing

 英数学者Alan M. Turingは、1937年に25歳でLondon数学会誌に発表した論文で、次のような仮想的な計算機械"Turing Machine"を描いた。

 1か0かを記憶するFlip-Flop回路と論理演算回路で構成される回路群を「Sequential Circuit=順序回路」という。入力によって1つまたは複数のFlip-Flopの1/0の組合せが変わる。これを順序回路の「State=状態」の遷移という。状態と入力によって、出力と次の状態への遷移が決まる。以下の状態遷移表の順序回路に、磁気テープのような読み書き可能なテープを接続すれば、「1桁以上の10進数を記載したテープを下の桁から入力し、プラス1の数値をテープに書き残す」Turing Machineとなる。
 回路の状態  テープ入力  次の状態  出力(動作)
   A     Bテープを1ステップ進め読む
   B  0〜8   テープ入力に+1してテープ
        に書き込み、終了
   B   9   Aテープに0を書き込む
   B  空白   テープに1を書き込み、終了
目的に応じた順序回路を作れば、Turing Machineであらゆる計算が出来る。Computer Scienceで学ぶ計算機の初めである。更にTuringは、テープの最初に状態遷移表を書いておけば、それを冒頭に読み込んで、その状態遷移表で動作するUniversal Machineが作れることを示した。Programを与えれば何でも計算してくれる汎用Computerの嚆矢である。

 そのTuringが独暗号を解読しVon Neumannに師事した伝記を読んだ。
  The man who knew too much, David Leavitt, Atlas Books, 2006
英役人の中流家庭に1912年に生まれたTuringは、全寮制Public SchoolからCambridge大の全寮制King's Collegeで数学を学んだが、勉学に秀でる一方で同性愛を覚えた。当時EinsteinもVon Neumannも居た米Princeton大のInstitute for Advanced Studyに大学院生として留学した。第2次大戦間近に帰国し、独軍の高度な換字暗号機Enigmaを解読する国家Projで、縦横2mもある巨大な電気機械を設計し、数台をフル稼働して様々な換字を試み、スパイ情報も得て解読に成功した。また独陸軍の別の暗号Fishの解読のために、真空管1,500本を使った電子機械Colossusを設計した。

 終戦で国立物理研究所に職を得て、RISC型の汎用Computer ACEの設計を完成し、またManchester大でManchester Computerを設計し、いずれも人工知能を目指したが、彼の同級生でCambridge大数学研究所長Wilkes教授が主導する計算用途のCISC型汎用Computer EDSACとの予算獲得競争に破れた。Wilkes教授には私も3度お目に掛っているが、学究的だが人当りの良い英国紳士だった。対してTuringは同性愛者を公言し、花粉の時期には防毒マスクで通勤する合理的「奇行」の独断専行の人で、応援団を作れなかった。人工知能は可能というTuringに対して学界は冷笑的だった。

 Computerの父と言われるVon Neumannの業績はTuringに負う所が大きいとも言われる。Von Neumannも選考委員だった雑誌Timeの20世紀の20人の偉大な科学者にTuringが選ばれた時の紹介文には次のようにある。
....All the computers today.... are on the basic computing architecture that John von Neumann, building on the work of Alan Turing, laid out in the 1940s.

 1952年にTuringは19歳の少年を町で拾って自宅に泊めた。直後に自宅に起こった盗難事件を捜査した警察は、犯人ではなく同性愛の罪でTuringを逮捕した。服役の代わりに女性ホルモンの注射を選んだ彼は脂肪太りし、胸が膨らんだ。彼は次のように言われたくないと自虐的に友人に書いた。Turing believes machines think. Turing lies with men. Therefore machines do not think. 当時同性愛者は麻薬患者同様、欲望のために国家をも裏切り兼ねないと信じられていて、国家秘密に過去に触れたTuringには尾行・監視がついた。1952年のある朝Turingは、齧り跡のある青酸カリに浸した林檎を残して突然死んでいた。警察は自殺としたが、知人は事故死と信じ、この本の著者は国家による謀殺を疑っている。   以上