米誌Timeの最近号5月13日号は、表紙にUniqloの橙色のDown Vestを掲げ、CAN THIS VEST SAVE JAPAN ? と大書した。Uniqlo's ultra-light down vest can be rolled up to fit into a small bag.とまで書いてあって大変な宣伝になった。p40からは、What they'll wear to the revolution と題した記事を東京駐在記者が書いている。theyはUniqloとも日本人ともとれる。4頁の記事の中で文章は2頁で、Uniqloの売れ筋商品12品目とMidtownの東京本店の写真が各1頁だ。柳井正会長兼社長が伝統的な日本の経営スタイルからは遠いユニークな経営=Revolutionで成功しており、日本経済立て直しのモデルになるのではないかという趣旨だ。
周知のようにUniqloはファーストリテイリングという会社の完全子会社だ。ファーストというから米語の常識でFirst Retailingだろうとずっと思っていたが、この記事で初めてFast Retailing Co., Ltd.という会社であることを知った。成程イギリス読みにすればファーストで、Co., Ltd.という表記と整合しているが、意外だった。よく知られているようにUniqloは山口県宇部市の洋服店を引き継いだ柳井正氏が大発展させたもので、今でも山口市に形式的な本社がある。Uniqloの社名だが、元来 Unique Cloth Warehouseという名の店を廣島に出しUnicloと呼んでいたが、香港に登記した際に"unique"に惹かれてUniqloと誤記してしまったのがその後正式社名になったとか。国内では千店に近付いているが、米国では現在の7店舗を2020年には200店舗にする計画と記事は伝えている。
GapやH&Mのような会社が伸び悩んでいる過去10年間に、Uniqloは3倍になったことに記事は注目している。安さで伸長しているのではなく、New YorkのUniqlo旗艦店から1ブロックも歩けばGapもH&Mもあってもっと安いにも拘わらずUniqloが売れている秘密は、TechnologyとDesignの融合にあるとしている。Designと言っても形だけでなく、どういう商品にするかのMarketingの知恵でもあろう。薄くて暖かいHeattechや、伸びがよく涼しいAIRismシリーズ、冒頭のDown Jacketなどが例証されている。
百貨店で売る洋服の分業的な業界が確立していた中、柳井氏は敢えて製造・販売を全て自社でやり、日本の技術を結集した布地を中国で安く縫製した。1998年にFleece Jacketが市場価格の1/3で売り出され、貧富を問わぬ顧客にうけて大ヒットした。一度2005年に米New Jerseyに3店出店したが翌年閉鎖に追い込まれた。満を持し2011年にNew York 5th Streetに出店し、ユニークな商品の広告を大々的に打って一挙に認知率を上げた。
柳井氏は伝統的な日本の経営者と全く違うと記事は言う。灰色のスーツが一般的な日本でUniqloのCasual Wearで(当然!)接客する。日本ではコンセンサス経営が一般的だが、柳井氏は企業家の熱情を以て先導し、現業に細かく口出しをしているという。楽天の三木谷社長と同じだと記事は言う。柳井氏の部屋の廊下には"Change or Die"と英語の標語が掲げられていると。氏は伝統的日本とは違う会社でないと生き残れないと強調し、Uniqloは世界一になると大志を語ったという。失うものが無かった終戦直後の企業家精神がソニー、ホンダ、パナソニック、トヨタを産んだが、日本は豊かになりSpoilされてしまったと氏は言う。だからUniqloの労働政策は非日本的で、中途採用が多く、外国経験のある人や外人を優遇し、外人の幹部登用が進んでいると。伝統的な日本企業は社員を家族のように扱うが、Uniqloは交換可能な部品のように扱うと、記者は言っている。
最近見た新聞記事では、Uniqloは幹部の処遇を全世界で統一する方針だと報じられた。しかし一方では新入社員の半分は3年以内に辞めていくという。入社2年で店長に抜擢された女性は「キツイがやりがいがある」とUniqloを褒める。確かに上澄み半分で社員を構成できれば業績は上がるだろう。反面、社員を使い捨てにするブラック企業ではないかという非難に対して氏は「日本の常識ではキツイかも知れないが、世界では皆それで頑張っている。そうしないと世界で生き残れない」とうそぶいたそうだ。
柳井氏のような経営が日本の労働界に緊張をもたらし、Time誌表紙にあるように日本経済を再生させるかもと言いたげな記事であった。 以上