米誌 Scientific Americanの特集号"The Cosmic Life Cycle, Origins of the Universe"で、Big Bangによる宇宙誕生説は古いことを知った。
Illinois大学留学中の1963年の特別講義で「Big Bang Theory, Bang Bang Theory, No Bang Theoryがある」と習った。超高温超高密度の豆粒が大爆発して今日の宇宙になったとするBig Bang論、宇宙は今拡大中だが重力で再び収縮(Big Crunch)して豆粒に戻り再び大爆発するというBang Bang論、豆粒が爆発など笑止というNo Bang論ということだった。
1964年にCMB=Cosmic Microwave Background が発見されNo Bang論が消えた。Bell研が通信衛星の研究中に、天空から微弱で一様なマイクロ波が届いていることを発見し1978年のノーベル賞となった。Big Bang又はBang Bangで宇宙が拡大し温度が1兆度ほどに下がると、プラズマ状の素粒子が結合して陽子や中性子ができ、更に数千度まで低下すると電子が陽子・中性子に捉えられて水素原子・ヘリウム原子が生まれた。この時に放出された電磁波がDoppler効果でマイクロ波に変わったのがCMBだ。それ以前に放出された電磁波はプラズマに吸収されたが、プラズマが原子になって宇宙が「晴れ上がった」結果CMBは伝播できるようになった。宇宙の黎明期からのCMBがなぜ今届くのか? 今我々が見ているアンドロメダ銀河は230万年前の姿だ。Hubble望遠鏡が42億光年離れた(42億年前の)銀河を撮影したというニュースがあった。天空の果てに我々は黎明期の宇宙を見ている(見えないが)訳だから、そこからのCMBを今我々は受信できる。
ベルギー人でカトリック司祭のGeorges Lemaitreが1931年にBig Bang論を発表した時には、Big Bangとは言わず専門用語で主張したが、No Bang論提唱者だった英人Fred Hoyleが1950年にBBC放送で「Big Bangなどというものがある訳が無い」と否定した言葉が皮肉にも世界中に広まった。
Big Bang論が観測結果と合わない矛盾の解決のため1980年にInflation論が発表された。宇宙誕生から10^-36秒(10の-36乗)から10^-34秒の間にとか、10^-35〜10^-32秒とか諸説はあるものの、極めて初期に宇宙は指数関数的に10^100倍以上に膨張したとする。膨張や膨張が止まった原因は物理学者の仮説の対象だ。Inflation終了後の現象は現代物理学で解析できるのだが、それ以前の物理理論はまだ確立していない。Einsteinが成し得なかった超高エネルギー状態での相対性理論と量子力学の統合がまだ達成されていないからだ。しかし現象の説明としては、Inflaton(-tionではない)と仮称する何らかの素粒子が、負圧を表わすInflaton Fieldという場の波動を表わし、負圧がある間は急膨張したとされている。
表記の特集はInflationの諸説を併記している。共通点は、1960年代のBig Bangは宇宙の始めではないということだ。過冷却という現象が知られている。水を静かに零度以下に冷やした場合、水は温度に気付かず凍らずに過冷却の水となる。揺するなど何らかの刺激で1点が氷結すると、水は俄かに温度に気付き氷結は泡のように全体に拡がる。これと同様な泡の拡大を仮定するのがOpen Inflation論だ。宇宙が拡大してInflaton Fieldはエネルギーを失うべき所を、過冷却の水のような仮安定状態で指数関数的な急膨張が続く。何らかの刺激で1点が真安定状態になると、それが泡のように広がり全体が真安定状態となり、急膨張は止まりBig Bang的拡大モード(重力より拡大力が僅かに勝る)に移行する。この泡が到達した地点に居る観測者には、泡の到達時点がBig Bangの開始時点だとする。あちこちで同様の泡が出来てUniverseならぬMultiverseになったという。
別の泡論もあった。Inflationは観測可能な宇宙より遥かに大きな宇宙を作り出し、沸騰水と同様にあちこちで泡が生まれ、泡の刺激で別の泡が生まれ、Fractal図のように沢山泡が出来た1つが我が宇宙だとする。
Inflationを含む広義のBig Bangによる宇宙誕生説が有力と理解した。相対性理論と量子力学を統一し、4つの力を統合する統一理論の完成と、宇宙誕生物語の完成は、同義であることも理解した。宇宙が拡大し続けてBig Chillに至るのか、やがて収縮してBig Crunchになるのかは、依然正体不明のDark Matter、Dark Energy次第であることも納得した。 以上