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うつせみScience
2021年11月26日
          新ワクチンと治療薬

 11月2日のNew York Timesは、米Novavax社のワクチンが11月1日にインドネシアの緊急使用許可を得たことを報じた。このニュースの要は、遺伝子を持たない蛋白質系ワクチン=Protein-Based Vaccineが世界で初めて承認されたことだ。米国発のPfizer社・Moderna社のワクチンはmRNA型で、コロナウイルスの表面に生える百本ほどの突起物=Spikeを作り出す遺伝子mRNAを注射する。人の細胞の細胞質内でmRNAがSpikeを作り、その異物を攻撃する抗体ができる。英AstraZeneca社のワクチンはVector型ワクチン=Viral Vector Vaccineで、チンパンジーのインフルエンザのウイルスの遺伝子DNAに上記Spikeの遺伝子DNAを付加した運び屋ウイルス=Vector Virus=Adenovirusを注射する。ウイルスの遺伝子DNAが、人の細胞核に入って、DNAからmRNAを生じ、mRNAがSpikeを作る。

 これに対して、Novavax社のワクチンは、蛋白質で構成されるSpikeそのものを注射する。遺伝子は使わないので、ワクチンは安定で、極端な低温保存を要しない。但しSpikeを作る製造過程では遺伝子工学が使われる。即ち昆虫に感染するウイルスのDNAにSpikeのDNAを紛れ込ませる。それを蛾の細胞に感染させ、Spikeを構成する蛋白質を多量に作らせる。蛋白質は合体してSpikeとなり、蛾の細胞の表面に突き出る。それをかき集めてSpikeだけを放射状に結合させた粒子=Nano-Particleを大量に作り、それを人に注射する。そのSpikeに対して人は抗体を作って対抗する。

 Novavax社は製造を印度のSerum Institute of Indiaに委託している。印度は世界一のワクチン製造拠点国だ。Novavax社のワクチンも2回の接種が必要だ。その効果は、武漢型に対して96%、英のα株に86%と優秀だが、南アのβ株に対しては49%と、効くが効きが悪いため、新ワクチンを開発中だという。δ株のことは発表していないから、多分悪いのであろう。年内に米国でも認可申請をする計画だという。新しい可能性だ。

 一方経口治療薬が視野に入ってきた。米Merck社のMolnupiravirという薬だ。薬名は難しいほど良く効くとでも思っているのだろうか。日本子会社のMSD株式会社は今年中に政府認可を取る計画で進んでいる。Merck社は軽症者775人の治験で入院率と死亡率が半減したことを確認し、米FDAに緊急使用の認可を求めている。

 塩野義製薬は9月下旬に軽症と無症状の患者を対象に経口治療薬の治験を始めた。中外製薬は米Atea社が開発した経口薬品候補を基に日本で開発しており、来年の認可を狙う。ワクチンで大儲けの米Pfizer社も発症5日以内に投与する経口治療薬Paxlovidの認可申請を米国で行った。

 Molnupiravir=モルヌピラビルは日英語のWikiの項目になっている。米Georgia州Emory大発の起業会社がインフル治療薬として開発し、2020年春から新型コロナウイルスを抑える経口治療薬として開発した。その起業会社を、Miami市の投資会社が買収しRidgeback Biotherapeutics社を設立した。そこと提携した製薬大手米Merck社が、治験と商品名Lagevrioとしての商品化を進めた。両社の関係は、ワクチンにおける米Pfizer社と独BionTech社の関係に相似だ。

 Molnupiravirは新型コロナを含むRNA型のウイルスの増殖を阻害する。即ちウイルスが遺伝子RNAを複製して増殖する際に、薬品由来の酵素をRNAに接続してしまい、複数種類の役立たずの変異種を作らせる。ニュースでは繁殖力の高い稀な変異種ばかりが報道されるが、その何千倍もの役立たずの変異株が生まれては絶滅して行く。新型コロナウイルスにはRNAの複製ミスを校正する機能があるが、それをすり抜ける能力があり、結果的に新型コロナウイルスの遺伝子RNAの複製・増殖が抑制される。

 2020年9月から2021年10月まで最終治験が行われ、入院と死亡を48%抑制する効果が発表された。新型コロナウイルスのδ株、γ株、μ株などに対しても同様の効果があるとされた。現在各国が承認と商品確保を急ぐ。

 Molnupiravirを含め、各種経口治療薬が普及しそうだ。また経口予防薬の開発も進んでいる。これらが行き渡れば、さすがの新型コロナウイルスもインフル並みに怖くなくなる日が来るのかも知れない。    以上