「Occupy Wall Street」というプラカードの若者たちがWall街を埋めた映像が報じられている。今年初めにEgypt政府打倒を叫びCairoのTahrir広場に集った若者の騒乱のお陰で、Egypt観光の途中で帰国しなければならなかった私共にとっては、印象の良くない映像だ。米国でもこういう事態が起こるのかと驚いた。ただどうも要求内容がよく判らない。
CanadaのAdbusters Media Foundationという団体が、広告の影響を排除するために広告を一切掲載しない消費者向けの雑誌を北米で出しているそうだ。その団体(の誰か?)が「Arabの春」に刺激されて「憲法記念日」の9月17日(土曜)に皆でWall街を占拠しようと呼び掛けた。すぐ同調したのが例の仮面Hacker集団のAnonymousで、Web経由で賛同者を増やした。NYC General Assembly、US Day of Rageという2つの団体も同調した。
呼び掛けのほぼモノクロのポスタを見てみよう。疾走する巨大な牛はWall街近くの実在の巨像Charging BullでWall街の繁栄の象徴だという。その上でバレリーナが華麗に舞っているのは金持や企業であろう。後ろから怒れる群衆が牛を追って迫っている。上部にはここだけ色のついた赤字で「我々の1つの要求は何だ?」と不思議なことが書いてある。要求はこれから合意しようということだろう。下部には#OccupyWallStreetというTwitterのKeywordと、テントを持って9月17日に集まろうと書いてある。
9月17日には5千人(主催側調べ)が集まり、次週には10千人に増え、今なお占拠は続いている。10月1日の土曜日には首都Washington, Los Angeles, Chicago, Boston, Miamiなど9か所で同様のデモが行われた。
大きくは(1)経済格差と(2)企業の強欲に反対し、「代議士への金の影響を無くす大統領直轄委員会を設けよ」「経済のメルトダウンを起こした責任者に重課を与えよ」と言っている。また「米国の富は1%の人が握っている。我々99%の人間はこれに強く抗議する」と言っている。
NYC General Assemblyは「Declaration of the occupation of New York」を9月29日に発表している。http://nycga.cc/2011/09/30/declaration-of-the-occupation-of-new-york-city/ このニュアンスは上記とは少し異なる。ここでは「金の力で政治手続きが決まるようでは真の民主主義は達成出来ない」にも拘わらず企業が政治を動かしていると非難している。企業の罪状を21カ条にわたって列挙している中には、@不法に家を取り上げた、@税金から緊急支援を受けながら幹部に高額の報酬を払った、@労働環境の不平等を維持、@農業を独占して破壊し食料供給を妨げた、@学生に巨大な借金を余儀なくさせた、@健康保険の義務を逃れるために金を使った、@Mediaを操作した、@大量破壊兵器を製造している、などなどがある。「これが全てではない」とご丁寧に註書きまでしてある。これらを改めるための政治手続きと方法を皆で作り出すためにWall街に集まろうと呼び掛けている。
上記主張を私なりに解釈すれば、「何をどう改善すれば良いかは判らぬが、とにかく我々の生活の苦しさを何とかして貰いたい。一方で金持やWall街で象徴される企業群はいい目を見ている。我々の苦境に比して怪しからん」という金持と企業群に対する論理的ではない敵意が感情的に爆発したということであろう。ということなら正にTahrir広場と同じだ。
大富豪の投資家George Sorosは「彼らの気持は判る」と言ったが、Wall街に勤める背広紳士はTVで「たむろする時間に仕事を探せ」と言った。
Egyptでは敵意が大統領を中心とした支配層に向いたが、米国では金持と企業群である点が異なるだけだ。Egyptで私は、民衆の気持ちは判るが支配層を放逐してもあまり良くなりはしまい、混乱が増すだけだ、と思っていた。事実その通りだった。それでも多大の犠牲を払って戦った民衆の愚かさと、しかし今なら政治を若干でも変えられるという見定めが出来る賢さが印象的だった。Egyptの場合は13世紀の英国のMagna Chartaと同様に支配層から妥協を引き出した段階で矛を収めれば一番良かったと思う。賢明な米国民はそういう道を採るに違いない。Wall街占拠は必ず体制側の妥協を引き出すだろう。それでまた財政赤字が増えようとも。 以上