今年はとんでもない暖冬だ。El Nino(2番目のNの上にスペイン語特有の〜が付いてエル・ニーニョ。英語ではニーノとも)の影響だという。El NinoはPeru沖の海水温が上昇することとよく知られているが、地球の反対側で海水温が上がるとなぜ日本が暖冬になるのか?
話は若干迂遠になるが、まず貿易風から始めよう。帆船時代に貿易に使われた東風だ。赤道付近の空気が温められて上昇気流を生み低気圧となるから、そこに赤道の南北から空気が流れ込む。しかしCoriolisの力が働き北(南)半球では右(左)に曲げられ(赤道向きの力とCoriolisの力とがバランスして)東北乃至東から吹く風となる。
Coriolisの力を忘れた方は次の思考実験をしよう。メリーゴーランドのように反時計回りで回転する円盤上でキャッチボールをするとしよう。外周から内周に投げた球は円盤の回転方向に外周並みの勢がついているからあまり動かない内周の受け手よりも右側に逸れる。内周から外周に投げると、急速に移動する外周の受け手よりも右に逸れる。同半径の受け手に投げると、球は直進するので、左側に回り込む受け手の右側に逸れる。反時計回転の円盤上の運動物体を(円盤の外から見ればそうは見えないが)円盤上で見ると、右向きの力が働いて右にカーブするように見える。これを発見者の名でCoriolisの力という。北半球(南半球)は反時計回り(時計回り)の円盤の性格を持つから、地球上で観測すると運動物体は右方向に(左方向に)Coriolisの力を受けるように見える。
貿易風で赤道に集まった空気は上昇して元に戻る。戻る風にもCoriolisの力が働き、戻る力とバランスした所で、北半球(南半球)の中緯度の上空で西からの風となる。これが偏西風で、飛行路ではジェット気流と呼ばれる。東に向かうジェット機が速く飛べる理由である。
赤道付近の高温の海水は、貿易風によって西に吹き寄せられ、太平洋の場合は西端で海水が数十cm高くなる。この高温の海水は暖流となって北半球(南半球)では時計回り(反時計回り)に流れて大平洋の西端を洗い、高緯度で冷やされて寒流となって大平洋の東端を洗う。南方から日本に来る黒潮(Planktonが少なく透明で反射が少なく本当に黒く見える)がそれであり、San Francisco沖に北方から流れて来て空気を冷やし名物の霧を生じさせる寒流もそれである。熱帯太平洋の東端では、貿易風で少なくなった海水を寒流と栄養分の多い深層水の湧き出しで埋めている。このため熱帯太平洋の東端(西端)では空気が冷やされて(熱せられて)気圧が高く(低く)なる傾向があり、これが更に貿易風を強化している。
数年に一度上記の傾向が崩れる。南半球の南米Peruの漁夫が、クリスマスの頃に南からの寒流が弱まり北から暖流が押し寄せて不漁になる現象を幼児キリスト=男の子=El Nino が来たと昔から表現していた。近代気象学によれば、貿易風が弱まり、熱帯太平洋の東半分の海水温が高まり、平均気圧が低下し、更に貿易風を弱める。これをEl Nino現象と呼ぶ。逆に東半分の海水温が通常より低くなる現象を 女の子=La Nina(ラ・ニーニャ)と呼ぶ。太平洋東端の気圧と西端の気圧は、一方が通常より高くなれば他方は低くなるというシーソーの関係にある。東太平洋Tahitiの平均気圧から豪州北端Darwinの平均気圧を引いた差を、南方振動指数=Southern Oscillation Index=SOIという。僅かな外乱が大きな振動を呼ぶ。
冬季の日本は通常西高東低の気圧配置となる。太平洋より冷え易いアジア大陸上に高気圧が生まれるからだ。黒潮の支流である対馬海流で温められた日本海から上る水蒸気が寒気で雪となって裏日本を覆い、山脈を越えた表日本では冷え込んだ晴天が続く。El Ninoが発生すると世界中の空気流が変わり、日本の南東に高気圧が出来易くなり大陸性高気圧と対峙するため、西高東低になり難く、暖かい高気圧のもとで日本は暖冬の好天となり、裏日本の雪も少なくなる。日本の南東に高気圧が生じる理由には諸説があるが、熱帯太平洋西端の海水温低下で周囲に高気圧が発生し易くなるからだとも、貿易風が弱まると黒潮が弱まるからだともいう。
今年の日本の冬は暖冬少雪で、El Nino現象の典型のようだ。 以上