「長期観測データから見た異常気象」という講演を聞く機会があった。スライド四十数枚の丁寧な講演だった。講師はつくばにある気象庁気象研究所の環境・応用気象研究部長の藤部文昭氏だった。1977年東大物理学科卒、同大学院で気象学を学んだ理学博士だ。
2月中旬の大雪は我が家周辺では60cmの積雪となり、自宅前の道路百平米の除雪に2-3日掛かった。住んで36年で初めてだった。地球温暖化でこれが常態化するのではないか、人力では除雪しきれなくなるのではないか、と恐れて電動除雪機をWebで調べたら2-3万円で買えるはずが軒並み売り切れだった。季節を外して買おうかと思う。つまり私は「異常気象が常態化しつつある」と感じていた。しかしそれを否定する講演だった。
雨(雪)の日は減っているが、確かに大雨(雪)は増えているそうだ。気温が上がると空気中に水分が含まれ易くなり、言わば(私の勝手な比喩)水の容器が大きくなる。だからその容器を満たすには時間が掛かり、ひっくり返すと大量の水が放出される。具体的には国内51地点の西暦1900年以来の気象統計で、100mm以上の降水があった日数の51地点平均は0.5〜2日だったが、その日数が変動しつつも上昇しており、100年で25%上昇している。私の生涯で20%も上昇すれば大きな変化だ。しかし年毎の短期変動が±50%もあるので、年間0.25%の上昇が大雪の原因とは言い難い。
同様に1mm以上の降水日数は年毎に±20%ほど変動しつつ100年間で14.5%減少している。また台風も来襲の数は変動しつつも減少しているが、強烈な台風の数は増え、少数精鋭的になっているという。つまり「最近は異常気象だ」というのは科学的な言い方ではないと悟った。長期的な変動は疑いないものの、その百倍以上もの短期変動の中に埋もれているからだ。
そこで講演者は面白いことを言い始めた。「近頃の天気は...」という言い方は「近頃の若い者は...」「近頃の言葉は...」と同じ言い方だという。長期動向は否定できないが、それより遥かに大きい短期的バラツキ(個人のバラツキ)の一端を捉えている可能性が高い。この主張は初代気象庁長官だった和達清夫氏と、気象庁を定年退職後NHKで気象キャスタをしていた倉嶋厚氏の共著「雨・風・寒暑の話」に記載されているとか。
実際過去の異常気象は列挙するにこと欠かない。1896年には彦根で1日596.9mmの降雨で琵琶湖が溢れ、高台の彦根城の麓まで水に浸かった。水浸しの大津と近江八幡の写真も見せてくれた。1911年には青森県南津軽郡に特大2寸=6cmの雹が1尺=30cm積もったという。1917年には熊谷で7寸8分の900匁=3.4kgの雹が降ったとか。3.4kgが俄かには信じ難く7寸8分の球体の体積を計算してみたら6.4 ltrだった。比重53%なら有り得る。クワバラクワバラ!! 台風も、室戸台風(1934)、枕崎台風(1945)、伊勢湾台風(1959)、第2室戸台風(1961)とあり、以降なぜか今日まで半世紀同等の台風は日本に来ていないという。それが先日フィリッピンに行ったのか。
年に0.85度の上昇としているそうだ。私の目測では±0.2度ほど毎年変動しつつ1910-2010の百年で0.8度上昇と読み取れた。但し最近10年間は変動はあるものの上昇は止まったかに見える。しかし海水温の上昇は継続しており、北極海の海氷減少も海水の酸性化(二酸化炭素の溶け込み)も続いているから、短期変動であろうという説明であった。
世界気温の短期変動を除くために過去10年間の平均をとる操作をすると、スムースな1本のグラフが出来るそうだ。これを二酸化炭素などの人為的効果を算入した場合と排除した場合の理論計算と比較すると、明らかに算入した計算に合致しており、人為的な原因の存在が確認できると。
上記のように、2月の大雪は地球温暖化のためとは言い切れないことは納得した。しかし地球温暖化が進んでおりそれは大雨大雪を呼ぶことも事実と知った。然らば2月の大雪は何%が地球温暖化由来であり、何%が短期変動と言えるのかと当然問いたくなる。こういう係数をEvent Attributeと言うそうだ。講師はこういう係数を今研究中だとのこと。
興味深い講演を聞いた。気象もなかなか奥が深い。 以上