米大統領選でBiden氏が勝利したことは、米国民にとっても世界によっても良かったと私は思うが、その勝利は僅差であった。1月6日には、選挙結果を確定させるための上下院合同会議が開かれた米議会に、Trump大統領の勝利を主張する暴徒が雪崩れ込み、死者5名のもみ合いとなり、議会トップ民主党のNancy Pelosi女史の個室を荒らす狼藉を働いた。
尤も議会に突入した人達はデモ隊の1割に過ぎず、一部がガラスを割って侵入したことは事実だが、誰かが正面玄関の内側から警備官が持つ鍵を使ってドアを開け、大半は正面から入ったとか。暴徒の可能性を当局が予め警告していたにも拘わらず議会側の警備が甘かったとも言われる。自然発生的というよりも、Trump派(-->影響力誇示)か反Trump派(-->大統領失墜)か判らぬが誰かが意図的に引き起こしたようにも見える。Kennedy現職大統領を射殺してしまう国だから、何が起こっても不思議はない。
いやそれは別として、Trump大統領がこれほどまでに大きな支持を得ているのは何故かと、誰でも不思議に思う。デモ隊のほとんどは白人男性だったという。Trump大統領の4年間で、上層に居ない白人男性の生活が改善真面目に考えていたようには見えない。それでも支持は固い。何故だ?
割り切れない気持で居た時に、或る論文を見付けた。MIT系のジャーナリズム雑誌Undarkと、米誌Scientific Americanが1月13日に、ほぼ同一の"How Science Explains Trump's Grip on White Males"(Trump氏が白人男性を捉えて離さないのを(社会)科学はどう説明するか)という記事を掲載した。私にとっては大変啓発的だったので、以下にご紹介する。
デモ隊も乱入者も圧倒的に白人男性で、持ち物は、銃、南軍旗(奴隷制度)、Naziの旗(体制否定)、QAnon(Trumpは世界的陰謀と闘う英雄)の印、などが特徴的だった。1人は議会の演壇に立ち"Trump won that election"と連呼。乱入者のために休会になった議会は数時間後に再開され、Biden氏を次期大統領に指名した。但し共和党の議員、ほとんどは白人男性の120名が、この決定に反対しBiden氏の勝利と闘うとした。
Trump大統領は任期中に、社会保険、安全、民主主義の仕組と理念、などを危うくした。それにも拘わらず経済社会的に広範囲な白人男性が、迷うことなく、しばしば暴力的に、Trump大統領を支持した。この現象をNew York Timesは、"White Male Problem"と呼んだ。しかしこういう現象は今始まったことではなく、二十数年前から心理学的に研究されて来た。
Oregon大心理学のPaul Slovic教授(1938-)は1994年に有名な実験をした。千五百人の米人に、ピストルの所持、妊娠中絶、原子力の危険性、死刑の問題などについて尋ね、考え方を調査した。結果は白人男性は、白人女性・非白人男女とリスクの感じ方が大きく異なることが分かり、"White Male Effect"と呼んだ。白人男性は、自らの文化的独自性と社会的地位を危うくするリスクを重要と捉え、他のリスクは許容した。彼らは、白人という人種、男性と言う性別、キリスト教新教徒という宗教にリンクした高い地位を享受しており、或いは享受できる資格があり、それを守り、或いは取り戻してくれるのはTrump氏だと確信している。正当な選挙を否定したり、議会に乱入するなどのリスクは、あまり強く意識していない。
Slovic教授はまた"Virtuous Violence"(正義の暴力)と呼ぶ現象を指摘した。地位を脅かされた時、特に権力者によってそれをかきたてられると、人々は道徳的に正しいと信じて攻撃に値する敵に暴力を振るうと。
そうか、白人男性の地位が大事で、それが脅かされた時、彼らは反発し、暴力を振るうことも躊躇しないということか。
別件だが、議会乱入者の中に、上半身裸の上に毛皮と角でVikingを装ったJake AngeliというPhoenix, AZのQAnonの男が居た。日英語のWikiに項目があるから驚く。英語版には乱入の経緯が詳しい。写真が興味深いから最後にご紹介する。「強い白人男性」「自尊心ほどには尊敬されない不遇」「Trump大統領の白人至上主義に心酔」「Trump大統領への攻撃は俺が阻止」という"White Male Problem"を具現した典型例と理解した。 以上
添付:Jake Angeli 省略