ホテルで手にした8月4日のInternational Herald Tribuneの13頁には、MS=MicrosoftのBallmer社長が女性と並んだ20cm角ほどの大きな写真があった。待てよ、この女性ひょっとして...やはりそうだった。Yahoo CEOのCarol Bartz氏と書いてあった。十数年前まで付き合いのあった人で今60歳だ。Googleに追い詰められ業績が低迷するYahooと、Googleの無料OS開発の発表に危機感を抱くMSが、Google対抗で手を組んだと報じていた。
彼女は昔Sun Microsystems(=Sun)の創業者Scott McNealy氏に次ぐNo.2だった。Sunの創世記からSunと提携し窓口を務めていた私とは浅からぬ縁があった。彼女はSunで鰻登りの出世をした。夫君もSunに勤めていて、さすがに奥さんの部下に位置付けられては気の毒と、奥さんの配下から外すのだが、間もなく奥さんが更に昇進して旦那さんの部門も配下に入ってしまい、旦那さんは配転を余儀なくされることが二三度繰り返された。彼女は創業者McNealy氏に、Sunで頑張ればCEOになれるかと尋ね、俺をクビにしないでくれとの否定的回答を得て1992年にAutodeckというソフト会社のCEOに転出した。因みに夫君はカッコ良くて一緒に居ると楽しく安らぐ人だった。世の男性が女性に求めるものと同じだなあと思ったものだ。
Yahooは周知のようにStanford大学の電気工学の博士課程を離脱したJerry Yang氏とDavid Filo氏が1995年に設立した会社だ。但しYahoo JapanだけはSoftbankが41%の筆頭株主でYahoo本社の35%を上回る別会社だ。ソフトウェアのOnline百貨店を目指したSoftbank(だからこの名前)をInternet会社にすると決心した孫氏の兵法で出来た会社だ。Yahoo創業者2人はCEO職を経営の専門家に任せ伝道者として活躍していたが、最近はまたYang氏が自らCEOに復帰していた。昨年MSがYahooに1株$33総額$46Bで買収を仕掛けた時、Yang氏は取締役会に諮ってこれを拒否した。その結果株価は$14に低迷し株主から顰蹙を買ったため、今年1月にCarol Bartz氏をリクルートして来て交代したそうだ。Bartz氏は早速豪腕を振るい、5%減員や強制休日でコストをそぎ落とし、回復基調が出てきた。しかし今回の提携はYahooの検索事業を10年間の収入分割(88%から漸減)で総額$4-5Bで売り渡し、その金でYahooは検索以外の事業(広告、メディア、携帯など)を立て直すという。創業者には出来なかった決断だ。
Sunでは私は、California大Berkeley電気工学PhDのキレ者でSun技術最高責任者のEric Schmidt氏と親しかった。"Network is the Computer"を唱えた戦略家だ。Novell社のCEOとして1997年に去ったが、2001年以降GoogleのCEOを務めている。54歳だが勤め先を全て成功させ世界の金持第129位だ。YahooとGoogleのCEOが昔のSunの仲間とは、因縁の対決めく。GoogleもStanford大Computer Science博士課程中退のLarry Page氏とSergey Brin氏が1998年に設立し「多数の重要サイトからLinkされたサイトは重要」というランク付け原理の検索エンジンで2004年に上場した。
Googleは先行のYahooとの競合を避け、検索エンジンを当初YahooにOEM提供し協力会社として育ててもらった。広告での競合も避け、無数のより小さな広告希望社に検索Keywordの入札をしてもらう自動ソフト方式を提供した。また無数の一般第三者サイトを広告の入口に使うAffiliate広告を管理する自動ソフトで、無数のWeb頁を広告媒体にした。
日経ビジネス7月27日号は、技術と市場の両方を理解する戦略家Eric Schmidt氏の、MSとの直接対決を極力避けてきた戦略を2頁で描く。有償ソフトで稼ぐMSに対し、ユーザには無償で様々なサービスを提供し、ユーザを集めて広告で稼ぐという新時代の事業モデルを開拓してきた。しかし遂に競合できる体力を自覚したようだ。Googleは携帯電話のOSは既に無償提供中だが、次にNet Book用無償OSを開発すると発表した。当然PC用OSに発展するだろう。一方MSは守るだけでなく、無償サービス事業に攻め込む構えを見せる。そのためにYahoo全体、または検索事業がどうしても欲しかったらしく、Bartz CEO就任当日にBallmer CEOから電話があり「一寸待ってよ。まだトイレの場所も判らないのよ」という会話があったとか。
Computer事業の変革期に、懐かしい仕事仲間の活躍に接した。 以上