YouTubeの講義を初めて体験した。1月22日(日)13時から3.5時間、東大Kavli数物連携宇宙研究機構(IPMU)・東工大地球生命研究所(ELSI)の合同一般講演会「起源への問い」があると知り、早速申し込んだが「応募者多数で抽選で落選」と言われた。多分200名ほどの会場だったと思うが運が悪い。追って「YouTubeで同時中継するので希望者は登録せよ」という連絡があって、自宅で講義を聞いた。Online参加者は160名ほどだった。よほど籤運が悪かったのか、落選者の多くはYouTubeとは縁遠かったのか。最近暇を持て余すインテリ老人が多いから後者かも知れない。
撮影技術にも依ると思うが、講義の理解には全く問題無かった。ただ常に努めて行う質問が出来なかったのは残念だった。講義中に飲物を用意したり、煎餅をバリバリかじったり、休憩時間にはソファに寝転がったり勝手に出来るから、もし出席とYouTubeの二者択一が今後あったら、YouTubeにしたくなると思う。但し緊張が不足して眠くなり易いのは欠点だが。
東大柏のIPMUは、世界中から天才を集め宇宙理論物理を研究している。米の金持Kavli氏が世界の優れた研究所に供与する研究費を受けている。ELSIは文科省の「世界のトップレベル研究拠点Program "WPI"」によって大岡山の奥に設立された研究所だ。講演3つと講師3人の鼎談があった。
IPMU兼Caltech大教授の大栗博司氏の講演は「物理学から見た宇宙の起源」で、138.2億年前の宇宙誕生から星の誕生・地球の誕生までを概観した。宇宙誕生後 10^(-11)秒以降は量子理論の標準モデルで説明できるが、その前を考えるには一般相対性理論と統合した統一理論が必要で、それには「超弦理論Super String Theory」だと明言した。9次元で考えるのだが、それには印度の数学者Ramanujanの理論でCalabi-Yau空間とやらを扱う「新しい数学」が必要で、その新数学をIPMUでは開発中だという。それが完成すればQuarkが何種類あるかも数学から求められるとか。
ELSI所長の廣瀬敬教授の講演は「現在から過去を知る--45億年の時間旅行」であった。45億年は勿論地球の年齢で、地球が出来て直ぐ生命は誕生したという。「直ぐ」を100時間くらいに考える説と、5億年くらいに考える説があるそうだ。(太陽のような)恒星の周りのリング状の物質が雪だるま状に固まって(地球のような)惑星ができた。地球には火星並みの巨大天体が激突し、そのエネルギーで地球の深部1,200kmまで熔解し、小天体群が叩き出されたのが集まって月になったSimulationを見せた。地球の核は、鉄-水素合金(現在は固体の周りに液体)だという。その外側に岩石のMantleがあり、一番外周には熔けたMagma Oceanが出来たとする。
Magma Oceanには海水の80倍の水が溶け込んでいた。やがて冷えて地殻と海ができ、海が対流してMagma/Mantleを冷やすから、対流でPlate Tectonicsが始まり、核の対流が地磁気を生じ、地磁気が大気を保持し、大気が海を保持する。月にも同時にMagma Oceanが出来たが、海が無いので地磁気も大気も無い。火星にはPlate Tectonicsも海もあったそうだ。
地球上で一番古い岩石は、深い所で出来て地表に露出した片麻岩だが、その中に既に生命体の化石があり、炭素同位体で計ると38億年前のものだと。それ以前の岩石は浸食で無くなっているが、月にはそれより古い斜長岩とKREEP(K=Kalium, REE=Rare Earth, P=Phosphorus=燐)が表面に豊富にあるそうだ。生命に燐は不可欠なのに今や地球上では稀なので、KREEPが地球に存在する内に生命が生まれ、燐を取り込んだに相違ないという。
東大で哲学を研究する納富信留教授の講演「古代ギリシャ哲学から問う起源」は、勿論ノートはとったが、私はあまり興味を持てなかった。
3者の鼎談では、2つの大事な話を聞いた。@納富教授が「哲学では判らぬことは判らぬのに、科学では暗黒物質とか判らぬものが判っているのは凄い」と言われたのに対して大栗教授は「それは数学のお蔭です。物理的に判らなくても数学が空白地帯を指し示すのです」と答えたことに私は感動した。A大栗教授は「Big Bangの前に何があったかという疑問は、時間は滔々と一様に流れるというNewton力学の時間に基づいている。一般相対性理論では、Big Bangの前には時間は存在しないのだ」と言われた。以上