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− アルキメデスの原理 −
その1
1997年9月6日
1.はじめに
アルキメデスの原理は、
(1)液体(例えば水)の中に物体(例えば石)を入れた時、石が軽く感じられる。
また、例えば木片を入れた時、木片が水に浮いてしまう。
それは水が石や木片に対してこれを浮かそうとする力を及ぼしているということ。
(2)この力を浮力というが、この浮力の大きさは物体が押しのけた液体の重さに等しいということ。
である。
「浮力」と言うものについては、風呂やプールで体が軽くなったりする経験からその存在に異論はないが、
その大きさが押しのけた液体の重さに等しいというのはどうしてなのだろうか?
2000年以上も前に、アルキメデス(BC287ーBC212)はどうしてそう考え付いたのであろうか?
実験から導き出したのであろうか?
近代科学は、ガリレオ以来実験という手段を武器に発展し続けており、
その元になる考えは既にアルキメデスにあったという。
確かにアルキメデスは近代科学の方法を既に正しく適用していたと思われるが、
上記の結論は、決して実験から帰納的に導いたものとは考えられない。
どちらかというと、まず深い洞察によりこうあるはずだという信念が形成され、
次に実験でそれを検証したという順番が正しい認識だと思う。
ガリレオ(1564ー1642)もニュートン(1642ー1727)もアルキメデスのこのやり方を倣い、
成功したのだと思う。
アルキメデスは上記の結論をどうして考えついたのであろうか?
2.アルキメデスの原理
アルキメデスの論文『浮体について』では、次のように記述している。
命題3: 1つの立体が、それに等しい容積、等しい重さ(したがって等しい比重)の液体の中に落とされると、
液体に浸って、表面より上に突き出ることもなく、またいっそう下に沈むこともないであろう(128図)。
命題5: 液体よりも(比重の)軽い任意の立体は、液体の中に落とされると、
次のように部分的に沈み、その浸った立体部分に等しい液体の容量が立体全体と同じ重さを持つことになるであろう(130図)。
命題6: 液体よりも(比重の)軽い立体が、液体の中に浸けられて表面に浮き上がる時、
その立体を上方に押し上げる力は、等しい容量の液体の重さが立体の重さにまさる、
その超過量に比例するであろう(131図)。
命題7: 液体よりも(比重の)重い立体は、液体の中に落とされると、
底に沈み、そして液体の中における立体の重さは、立体の容量に等しい容量の液体の重さだけ、
ほんとうの重さよりも軽くなるであろう(132図)。
…中公バックス『世界の名著9 ギリシアの科学』(中央公論社)の三田博雄氏訳による。図は省略。
アルキメデスの理論はあまりにも精密にできているものだからとかく見逃してしまうが、
「浮力」という概念がまず素晴らしいものだということに注目したい。
つまり、これは立体そのものの性質ではなくて周りの液体による作用だという理解である。
私達は既に浮力を学んでいるから何でもないことと思うかもしれないが、
これ自身が既に画期的な考えであったことはアリストテレスの理論を少し調べれば分かる。
さて、それはともかくとして、アルキメデスの結論はどうやって考え出されたのかを、
次のガリレオの説明から読み取ってみよう。
まず最初に、「固体の水中での重さは、その物体の空気中での重さよりも、
その物体とおなじ体積の水の空気中での重さだけ軽くなる」ということを知っておく必要がある。
この原理は、アルキメデスによって証明されたものだが、かれの証明法は非常にめんどうなので、
それをここでとりあげるには時間がかかりすぎるから、ここではほかの方法でそのことを証明することにしよう。
そこで、例として、純金の塊を水に沈める場合を考えよう。
もし、この塊が水でできているとすると、水のなかでは、下に沈むことも浮きあがることもないから、
その重さはまったくないに等しいであろう。
そこで、水中での金の塊の重さはそれと同体積の水の重さだけ減少することは明らかである。
…板倉聖宣『私の新発見と再発見』(仮説社)所収の「ガリレオの処女論文 小さなはかり」による。
実に直観的、実に簡潔である。
これだけのことなのであるが、計算好きの現代人はこのような説明では納得行きにくい。
少し手間をかけてみることにしよう。
その2 につづく
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