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− 役に立つ集合論入門 −

その1
1997年5月14日


1.役に立つ集合論とは
  普通、集合論といえば集合と集合の包含関係を扱う「論」です。
  しかし、ここでは分類の道具として取り扱います。 その意味では、「集合」でなくて「分類(又は分割)」、「論」ではなくて「術」です。
  その特徴は、包含関係を表す記号 ⊆,⊂,⊇,⊃ を使わず、 全て等号 =(及びこれと等価な矢印 →,←)で表していることです。 算術式で馴染みの「+」(加法),「・」(乗法)のような記号しか使わず、計算も殆ど算術式と同じです。 それでいて、いろいろな意味で役に立つのです。 先ず、「その1」では、基本的な用語と操作を紹介します。

(1)目的 
  集合とは、ある定義された事物の集まりです。 また、1つ1つの事物のことを集合の要素といいます。 そしてこれらの要素をある基準で分けて新たな集合を定義します。 いろいろな基準を設けることにより複雑に分類された集合が定義できますが、 それを数学的に、ということは定型的に扱おうというのが、この集合論の目的です。

(2)全体集合
  今何かの事物を扱おうとするときに、先ずその範囲を設定します。 例えば今教室に居る40人の生徒です。この40人をある基準で分類することにします。 この様な時、生徒40人という集まりを全体集合といいます。 全体だからといって決して宇宙全体と考えないで下さい。
  これをここでは I と書くことにしましょう。
   I={教室に居る40人の生徒}

(3)補集合
  40人の生徒をある基準で分類します。 例えば通学に電車を使っているか否かです。 電車を使っている生徒の集まりを、今Aとしましょう。
   A={電車を使う生徒}
  すると残りの生徒は電車を使っていないということになります。 これを集合Aの補集合といい、A^と書きます。
   A^={電車を使わない生徒}

(4)互いに素
  いくつかの集合を取り上げたとき、これらの集合間で共通の要素が全くない場合、 これらの集合は互いに素であるといいます。 例えばAとA^とは互いに素となります。

(5)集合の和
  2つの集合の要素を合わせて1つの大きな集合を作ることができます。 この様な操作(及びその結果)を和といいます。 集合の和は ∪ 又は + の記号で表します。 例えば、AとA^の和は全体集合 I となります。
   I=A+A^
  さて、ここで等号(=)の意味は 等号の左側の集合の要素と右側の集合の要素とが 全て一致していることを表します。

(6)分解と合成
  ある集合を互いに素である複数の集合に分ける操作を分解といいます。 AとA^は互いに素で、その和が I となりますから、I はAとA^に分解出来ることになります。 このことを矢印(→)で表します。
   I →A+A^  又は  A+A^← I
  分解の逆を合成といいます。
   A+A^→ I  又は  I ←A+A^

(7)集合の積
  ここまで通学に電車を使うか否かだけで分けていましたが、 次にバスを使うか否かで分けてみましょう。 通学にバスを使っている生徒の集まりをBとします。
   B={バスを使う生徒}
  この補集合は、
   B^={バスを使わない生徒}
となります。このときやはり、
   I=B+B^
が成り立ちます。

  さて、通学に電車とバスの両方を利用する生徒の集まりを、 集合Aと集合Bの積といい、
   A∩B、A・B、又は AB
で表します。
   AB={電車とバスの両方を使う生徒}
同様に、AB^、A^B、A^B^ も次のように定義できます。
   AB^={電車は使うが、バスは使わない生徒}
   A^B={電車は使わないが、バスは使う生徒}
   A^B^={電車もバスも使わない生徒}
このとき、AB、AB^、A^B、A^B^は互いに素で、かつ
   I=AB+AB^+A^B+A^B^
が成り立ちます。



(8)素集合
  AB、AB^、A^B、A^B^を素集合といいます。
正確には、集合Aと集合B(に対応する命題[A]と命題[B]) に関する素集合と言います。 同様に、集合Aに関する素集合はAとA^であり、 集合Bに関する素集合はBとB^となります。

(9)展開
  分類とは、全体集合を素集合の和の形に分解することです。
[A]という基準での分類は、
   I=A+A^              …@
[B]という基準での分類は、
   I=B+B^              …A
[A,B]という基準での分類は、
   I=AB+AB^+A^B+A^B^    …B
です。Bの式は、@及びAから次のように導くことができます。
   I=I・I=(A+A^)(B+B^)=AB+AB^+A^B+A^B^

さらに[C]という基準を加えれば、
   I=C+C^
ですから、
[A,B,C]という基準での分類は、
I=I・I・I=(A+A^)(B+B^)(C+C^)
 =ABC+ABC^+AB^C+AB^C^+A^BC+A^BC^+A^B^C+A^B^C^
となります。




その2 につづく

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