ためになる用語集

• 初動負荷理論 (Beginning Movement Load)
  
  
  • 小山裕史氏が、月刊陸上競技1994年3月号に発表した理論。
  • 活動的で能力の高い体というのは、根幹部が初動作で力とスピードを生み末端部への伝達がスムーズに行われる体、根幹部から末端部へ走行する筋肉のリズミカルな伝達の持てる状態のことである。
  • 根幹部から末端部、というのは下記のような配列になる。
    • 下半身
      臀筋、股関節周辺⇒下腿部⇒足首⇒足甲部
    • 上半身
      肩甲骨周辺⇒上腕部⇒前腕部⇒手甲部

  • 上半身と下半身は分けて考えられるものではなく、上半身の動作が下半身の筋活動を行うきっかけとなるなど、シンクロナイズされている。
  • 初動作に負荷とスピードを求めるトレーニング方法を初動負荷と呼ぶ。
  • 初動負荷形態のトレーニングによって、下記の効果を得ることができる。
    1. 心拍数の適正リズムアップ、および高レベルな上昇、脈圧の増大
    2. 根幹部の筋肉群の発達（末端部が過度に発達しない）
    3. 関節の柔軟性の増大

  • 目標は、「初動作の負荷に打ち克てるトレーニング」、「初動作にスピードを与えられるトレーニング」の２つである。
  • トレーニングにおいては、下降時にはややゆっくりとした動作で行い、押し上げや立ち上がりを急に強くする。
  • 弾性の獲得は、トレーニングの目的のひとつであり、プライオメトリクストレーニングも初動負荷形態のトレーニングである。
  
  
  
  
• アシドーシス (Acidosis)、アルカローシス (Alkalosis)
  
  
  • 生体は、環境の変化に対して生理的な機能・状態をある一定範囲に保つ。
  • 血液の酸−塩基平衡（酸性〜アルカリ性の度合いのこと）も、その機能の１つであり、安静時でｐｈ７．３５〜７．４５の弱アルカリ性に保たれている。
  • 平衡が酸性側に傾き、ｐｈ７．３５以下になった状態をアシドーシスと呼ぶ。
  • 逆に、アルカリ性に傾き、ｐｈ７．４５以上になった状態をアルカローシスと呼ぶ。
  • 代謝性では重炭酸イオン濃度（HCO3-）はアルカリ性へ傾かせ、呼吸性では炭酸ガス分圧（PCO2）が酸性へ傾かせる。両者のバランスが血液の恒常性を維持する。
    1. 代謝性アシドーシス
       • 運動時に無酸素系では、グリコーゲンを燃料としてＡＴＰを生産するが、同時に疲労物質として知られる乳酸も生成される。
       • 運動時に有酸素系では、脂質を燃料としてＡＴＰを生産するが、酸素が不十分になるとケト酸と呼ばれる代謝物が生成される。
       • 乳酸、ケト酸は、血中のHCO3-濃度をさせる。
       • HCO3-の低下分をPCO2で代償しきれなくなった状態が、代謝性アシドーシスである。

    2. 代謝性アルカローシス
       • 激しい合宿などで食欲がなくなり水ばかり飲み、その後激しい嘔吐を繰り返して胃酸を失った場合などにみられる。

    3. 呼吸性アシドーシス
       • 運動によるCO2の生産亢進と排出低下が起こることで、HCO3-では代償しきれなくなった状態である。

    4. 呼吸性アルカローシス
       • 短時間の激しい運動において、CO2の生産量よりも排出量の方が上回る過呼吸の状態でみたれる。

  • アシドーシス、アルカローシスともに異常な状態でありパフォーマンス低下に直結するので、すぐに回復をはかる必要がある。激しい運動中に休息がとれるなら、アシドーシスとアルカローシスの解消につとめるべきである。
  • 息を吐き出す方を意識して行うことで、PCO2を低下させることができる。
  • HCO3-を含んだ水分の補給も有効である。
  
  
  
  
• 運動神経 (Motor neuron)
  
  
  • 運動を行う際、その行動様式は、以下の図のように筋肉へ伝わってゆく。

    

  • 脊髄前角細胞と筋をつなぐのが運動神経である。
  • 随意運動でも、不随意運動（伸張反射など、脊髄から司令が出る）でも運動神経は使用される。
  • 運動神経は、以下の２種類に分類される。
    1. アルファ運動神経　⇒　脳の司令を骨格筋へと伝える
    2. ガンマ運動神経　⇒　骨格筋収縮を調整する信号を筋紡錘へ伝達し、運動の微調整を行う

  • 運動神経は、太いほど伝導速度が速くなる。従来は、一般人と競技選手で伝導速度に差はないと言われてきたが、近年の研究で競技選手の方が最大伝導速度が速いという報告も出てきている。未だ研究中であり、今後の報告が待たれるところである。
  • 運動神経だけではないが、『神経系の適応（トレーニング効果）』は、レジスタンストレーニングとも関係がある。レジスタンストレーニングの初期においては、筋断面積は増加しないのに発揮筋力が増大することがわかっており、筋を支配する神経系の適応が反映されていると考えられている。
  
  
  
  
• 炎症 (Inflammation)
  
  
  • 有害な刺激に対する生体内の防御反応のこと。
  • 損傷した組織が回復するうえで必要不可欠な反応であり、壊死した、あるいは壊死しつつある組織を排除し、正常な組織の再生を促進するものである。
  • 主な徴候は、�@痛み、�A腫れ、�B発赤、�C発熱、�D機能の喪失、の５つである。
  • 外傷後に適切な処置を行わなかった場合、炎症反応を免れた周辺の組織にもにも影響を及ぼし、炎症が拡大してしまう。炎症の拡大には、２つのメカニズムがある。
    1. 損傷によって周辺の細胞へ十分な酸素が供給されず、酸欠によって細胞が壊死してしまうもの

    2. 白血球が損傷部分の血腫を除去する際に分解酵素を利用するが、この酵素が正常な細胞を破壊してしまうもの

  • 二次的な炎症の拡大を防ぐには、冷却が有効であると考えられている。患部周辺を含めて冷却することにより、損傷部周辺の細胞の代謝を低下させ、酸素必要量を減らし、酸欠による正常細胞の壊死を減らすことができる。
  • 自覚はなくても、スポーツを行えば必ず炎症は起きるものであり、十分なアフターケアが必要である。
  
  
  
  
• プライオメトリックトレーニング (Plyometric Training)
  
  
  1. 概要
     • 筋ができるだけ短時間で最大筋力を発揮できるようにするエクササイズである。
     • 重力を利用し筋肉へエネルギーを貯え、このエネルギーを直ちに反対の動作へ用いることで、筋肉の特質である弾性要素の力によって筋と結合組織（筋鞘と腱組織）がすばやく力を発揮して、最大パワーを発揮するものである。（たとえば、高い所から飛び降りて着地後すぐにジャンプをする動作（デプスジャンプ）など）
     • このトレーニングは、陸上競技や球技（バスケットボール、バレーボール、ラグビー、野球など）など、スピード筋力が必要なスポーツで有効である。
     • このトレーニング自体を最終目的とするのではなく、全般トレーニング（ストレッチ、ランニング、筋力トレーニングなど）の一部と考え、まずは適切な筋力およびコンディショニングトレーニングを実施したのちに実施すべきである。

  2. メカニズム
     • プライトメトリックトレーニングの動作は、デプスジャンプを例にとると下記のように分析できる。
       1. 着地時に、足の接地と同時に膝をすばやく曲げることにより、大腿四頭筋と股関節伸筋にすばやいエキセントリック動作（筋肉を伸ばしながら力を出す動作）が生じる。
       2. すばやいエキセントリック動作は『伸張反射（または、伸張−短縮サイクル）』を引き起こす。伸張反射は、筋紡錘（筋肉の伸長の速さと大きさを感知する感覚受容器）から発する感覚ニューロンが脊髄の運動ニューロンへ刺激を伝え、運動ニューロンが先に伸張された筋（錘外繊維）の収縮を引き起こすものであり、筋肉が過度に伸張されて損傷を受けることを防ぐものである。
       3. 反対方向にすばやく加速動作を行うことで、伸張反射により発生した大きなコンセントリック収縮（筋肉を縮めながら力を出すこと）を使って、より高いジャンプが可能となる。

     • プライトメトリックトレーニングでは、筋の伸張速度がきわめて重要である。伸張速度が速いほど、伸張反射によるコンセントリック収縮は大きくなり、より爆発的に大きな力を発揮できるようになる。
     • 伸張の大きさは重要ではない。すなわち、小さくすばやく動作を行った方が、より大きな力を発揮できる。

  3. トレーニング実施の前提条件
     • 脚と股関節部分の望ましい筋力レベルは、体重の１．５倍以上の負荷でフルスクワットができることである。衝撃度の高いプライトメトリックスを実施するための最低基準とである。
     • 上半身の望ましい筋力レベルは、両手をたたく腕立て伏せが５回連続できること、またベンチプレスを体重１１５ｋｇ以上の選手は体重で、体重７５ｋｇ以下の選手は体重の１．５倍で、標準的な選手はこの指針に準じた重さでベンチプレスができることである。

  4. トレーニングの実施方法
     1. トレーニング頻度
        • 通常、1週間に１〜３回実施する。
        • 身体の同じ部位のドリルを２日連続で行ってはならない。

     2. トレーニング量
        • 着地回数で考えると、初心者：８０〜１００回／日、中級者：１００〜１２０回／日、上級者：１２０〜１４０回／日、程度となる。

     3. トレーニング強度
        • 筋や結合組織、関節に加わるストレスの大きさを示す。
        • トレーニングの開始段階では強度・量ともに大きくしてゆくが、高強度のドリルを基本とする段階では量は減らすようにする。

     4. 回復期間
        • プライオメトリックストレーニングは全力で行う運動であり、十分な回復期間をとる必要がある。
        • コンディショニングエクササイズではなく、スピード筋力のトレーニングと考えるべきである。
        • デプスジャンプの場合、レップス間：５〜１０秒、セット間：２〜３分、トレーニング間隔：２〜４日、程度の回復期間が必要である。

     5. 筋力トレーニングとの組み合わせ
        • この２つを組み合わせることで、トレーニング効率と身体的能力を最大限に高めることができる。
        • 通常、高強度の筋力トレーニングとプライオメトリックストレーニングを同一のトレーニング日に行うことは避けるべきである。ただし、陸上競技においては高強度の筋力トレーニングとプライオメトリックストレーニングを合わせた『コンプレックス・トレーニング』が有効となる場合もある。この場合には十分な回復期間を確保するように注意する必要がある。
        • 下半身の筋力トレーニングには上半身のプライオメトリックストレーニングを、上半身の筋力トレーニングには下半身のプライトメトリックストレーニングを組み合わせる。
        • 高強度の筋力トレーニングとプライオメトリックストレーニングの間隔は、１〜２日はあけるようにする。
        • トレーニングスケジュールの一例を下表に示す。

        曜日	筋力トレーニング	プライオメトリックス
        月曜日	高強度・上半身	高強度・下半身
        火曜日	低強度・下半身	低強度・上半身
        木曜日	低強度・上半身	低強度・下半身
        金曜日	高強度・下半身	高強度・上半身

  
  
  
  
• カーボローディング（炭水化物ローディング） (Carbohydrate Loading)
  
  
  • 長時間の持久力運動の前に、筋グリコーゲンを高めるために利用される技術である。
  • 運動前の筋グリコーゲン濃度を高めることは、長時間の激しい運動に対してパフォーマンスを維持する効果や、筋力や短時間の高強度運動との関連があることが報告されている。
  • 伝統的なカーボローディングの方法は下記の通りである。
    1. 第１段階　⇒　グリコーゲンの枯渇
       　選手は３日間低糖質食（総カロリーの４０％以下）を摂り、最大酸素摂取量の８０〜９０％の運動を２回または３回実施する。
    2. 第２段階　⇒　超回復効果
       　選手は３日間高糖質食（総カロリー摂取の８５％〜９０％）を摂り、３日間の休養または非常に強度の低い運動を実施する。正常以上の筋グリコーゲンの増加が引き起こされる。

  • この方法では、第１段階で身体的・心理的疲労、落胆、イライラが生じることがあり、思った以上の低いパフォーマンスしか得られないことがある。そこで、下記の修正案が推奨されている。
    1. 第１段階　⇒　グリコーゲンの枯渇
       　選手は３日間低糖質食（総カロリーの５０％以下）を摂るとともに、トレーニング量を徐々に減らしてゆく（トレーニング量は第１段階〜第２段階に渡り６日間かけて徐々に減らしてゆく）。
    2. 第２段階　⇒　超回復効果
       　選手は３日間高糖質食（総カロリー摂取の７０％）を摂るとともに、第１段階から引き続きトレーニング量を減らしてゆく。

  • 単純に、常に高糖質食を摂り続け、試合前にトレーニング量をテーパリングさせるだけでも優れた成績を収めている持久力系の選手もいる。
  
  
  
  
• クライオセラピー
  
  
  • クライオセラピー（寒冷療法）とは、冷やすことによって、リハビリテーションおよびリコンデショニングを行うものである。
  • 冷却により、痛みを除去することができる。
  • 痛くて動かせなかった部位を、冷却によって痛みを除去した状態で、ストレッチ（＝クライオストレッチ）や運動（＝クライオキネティックス）を行うことで、血液循環を促進し、治癒を早めることができる。また、動かすことで筋萎縮を最小限に食い止める効果もある。
  • 『pain free』が原則。流水や氷で、感覚がなくなるまで（平均１２〜２０分程度）十分に冷やす。２〜３分で感覚が回復するので、動かして冷やすの繰り返しとなる。
  • 氷は安価で入手しやすく、２４時間いつでも選手自身で実施できるメリットがある。
  
  
  
  
• ピリオダイゼーション
  
  
  • １９６０年代に、ロシアの生理学者 Leo P. Matveyev と、旧チェコスロバキア出身のスポーツ科学者 Tudor Bompa が提唱したもの。『一般適応症候群（ＧＡＳ）理論』（カナダの内分泌学者 Hans Selye の理論）を基にしている。
  • トレーニングサイクルを以下のように分類する。

    1. ミクロサイクル
       • 最小のトレーニング周期
       • 通常は１週間単位

    2. メゾサイクル
       • いくつかのミクロ周期の集まり
       • 通常は、３〜６週間周期
       • ミクロ周期における負荷変動に対して、少し遅れて現れる生体レベルでの適応の効果を引き出すとともに、オーバーワークを防ぐ効果がある。

    3. マクロサイクル
       • もっとも大きなトレーニング周期。２つ以上のメゾサイクルを含む。
       • メゾサイクルは、準備期、試合期、移行期に分けられる。

         1. 準備期
            • 試合のないシーズンに設定し、コンディショニングのための運動を行う。専門的なスキル練習は軽くする。
            • さらに、３つの段階に分けられる。

              1. 筋肥大段階
                 • トレーニング量最大（レップ数８〜１２回で、３〜５セット）
                 • トレーニング強度最低（１ＲＭの５０〜７５％）

              2. 筋力強化段階
                 • トレーニング量中程度（レップス数５〜６回で、３〜５セット）
                 • トレーニング強度中程度（１ＲＭの８０〜８８％）

              3. パワー強化段階
                 • トレーニング量最小（レップス数２〜４回で、３〜５セット）
                 • トレーニング強度最大（１ＲＭの９０〜９５％）

         2. 試合期
            • トレーニングの成果を安定して維持する期間。
            • トレーニング量は少なく、トレーニング強度は高くする。スキル練習や、戦術のためのトレーニング時間が増えるとともに、コンディショニングにかける時間が短くなる。

         3. 移行期
            • 積極的回復（トレーニングの中断ではなく、心身のストレスが解放できる程度の負荷でトレーニングする）を目的とする期間。
            • 期間は１〜４週間程度。

  • 下図に、トレーニング量と強度の関係のイメージを示します。
    

  • 【参考】下図は、私が採用しているサイクルトレーニングのトレーニング量と強度のイメージ図です。サイクルトレーニングは、パワーリフターが一般的に実施しているトレーニング方法ですが、ピリオダイゼーションの考え方に近い変化となっており、効果があることが納得できます。
    
  
  
  
  
• テーパリング
  
  
  • 競技大会で最高のパフォーマンスを発揮するために、トレーニングを減らして、疲労を除去し、万全の態勢で競技大会を迎えられるように調整することをテーパリングといいます。
  • トレーニングの量・頻度を減らしても、強度を維持すればパフォーマンスはあまり低下しないこと、さらには量を減らすことによってパフォーマンスの向上が期待できることがわかっています。
    • 水泳について以下の報告がある。
    • １日９０００ｍの泳距離を、２週間にわたり３０００ｍに減らした。
    • スイムベンチによる筋力は１７．７％増加、泳タイムは３．１％改善された。
  • 現在、テーパリングの期間は１〜２週間が一般的なようです。テーパリング期間が長くなると、パフォーマンス低下の危険性が増すため、研究報告でも４〜２８日以内で行うことが勧められているようです。
  
  
  
  

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