SYSTEMA by MITO YUKO
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< サイエンス・カフェ、仮面、茶席 >
(2007.9)
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◇ 『遺伝子・脳・言語』のタイトルに、〜サイエンス・カフェの愉しみ〜
という副題がついた 中公新書、もうお読みになったでしょうか。
「科学を文化に!」という呼びかけのもと、数人の科学者、数学者、それに
どこからともなく集まった市民が、東京都内の小さなカフェで、ワイン片手に
ざっくばらんな対話をした。
飛び出す話題は、コンピュータやロボット、ウェブやゲーム、
確率や素数、遺伝子や 脳 、はたまた 生命の起源や 宇宙の仕組み
といったところまで、実に様々。
参加者の意識のおもむくまま、時間が尽きるまで、
つまり アドリブが基調のサイエンス・カフェなのですが、
この集まり、 一つ 重要な約束事があって、
「専門用語は 使わない」。「たとえ知っていても、使わない」。
科学者も含め、すべての参加者が、
自然言語だけで何とか サイエンスに迫ろう としているのです。
◇ 主催するのは武田計測先端知財団。
その名を「カフェ・デ・サイエンス」といいまして、
すでに10数回のカフェが2年ほど前から開かれています。
冒頭に紹介した『遺伝子・脳・言語』は、
その初期の頃のカフェ数回分を 再現し、加筆したもので、
科学者サイドからは 遺伝子研究の堀田凱樹氏と
脳研究の酒井邦嘉氏が対話の受け手として参加。財団プログラム
オフィサーの 三井恵津子氏がモデレーターを務めています。
◇ 読まれるとすぐにわかることですが、
「市民といっても、この文化度の高さは何だ!?」
と思われるような対話が毎回繰り広げられています。
実は、何度かわたしも参加させていただいている
のですが(本の中で発言は匿名です)、
いま振り返ってみると、
「市民」といわれている皆さんは、それぞれに
何らかの 専門分野 を お持ちの方だったように思います。
バイオの専門家、電気の専門家、材料の専門家、化学の専門家、
コンピュータの専門家、心理学の専門家、音楽の専門家・・などなど。
誰かが頼んで呼んできたわけでもないのに、集まっているのです。
つまり、こういうことだったのでは
ないでしょうか。
「専門家」の仮面をつけると、限られたことしか
言えないし、考えられない。 けれど、
「市民」の仮面をつけると、自由にものが言えるし、
思考もおのずと柔軟になる。
◇ 日本の伝統芸能である能や狂言、舞楽、 あるいは
ヴェネツィアの仮面カーニバル といったところまで、
世界には 仮面を使った祝祭や芸能が多数存在します。
人は仮面をつけると、いつもならしない発想をするし、
いつもとは違うコミュニケーションのルートを得て、
全く新しい世界観に至ることもできる。
社会の慣習化に伴う 閉塞感や緊張感を、
仮面をかけるという 非日常の行為 によって
打ち破ってきたわけです。
と、このように考えると、
サイエンス・カフェにも ゛現代版 仮面劇 ゛
としての側面が見出せるわけです。
それは平素ではありえないコミュニケーションの
ルートであり、場 です。
◇ ただ、従来の 仮面劇と 大きく違うのは、
現代の社会では、「一市民」であることが
すでに非日常の経験になっていることです。
分業化が進んだ社会では、「ただの人」に戻るのにも
ものすごく大きなエネルギーが要る。
実際に仮面こそ 被らないものの、現代人は
素の顔に戻るための仕組みを いろいろと工夫し、
それによって生活に張りを与えようと、日々 努力しているわけです。
◇ 「きれいな水」や「きれいな空気」がすでに貴重な
存在になってしまっているように、
「ただの人」として「普通に」物事を見ることは
現代の社会では、大変に希少性の高い経験になっている。
腰から刀をはずし、あえて 狭い にじり口 を通って、
茶室に入っていった戦国時代の武将たちのように、
現代の専門家たちは、専門性の鎧を脱いで、
素の顔に戻るために、わざわざカフェに出掛けてゆく。
「専門用語は たとえ知っていても 使わない」。
制約の中に身を置いてこそ、
脳の活動に「しばり」を加えてこそ、
得られる思考の飛躍があることに、
人々はもう気づきはじめているのかもしれません。
あり余るほどの知恵の蓄積を前にしている
いまだからこそ 現れたこのスタイル、
21世紀型 の コミュニケーション と 思います。
*武田計測先端知財団のサイエンス・カフェについては、
同財団ホームページから。
http://www.takeda-foundation.jp/index.html
*『遺伝子・脳・言語 〜サイエンス・カフェの愉しみ〜』
堀田凱樹、酒井邦嘉 著 中公新書 2007年 は、こちら。
http://www.amazon.co.jp/o/ASIN/4121018877/250-1673623-6374639?SubscriptionId=13YYE42STQ3840G75S82
2007.9.12 みと
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