大久保っち(おおくぼっち)のちっちゃな研究室
大久保っちのちょっとした研究
アジア史学習における音楽の教材化の可能性とその問題点2
日・韓次世代学術フォーラム第2回学術大会で発表した内容の概要です。世界史授業で音楽をどう活用できるか、その問題点は何かを整理しました。 |
3.アジア史学習において音楽教材の使用を困難とさせている要因 |
なぜアジア史の学習で使う音楽でいい教材がないという点については次のことがいえる。
(1)使う音楽で時代性を表すものが少ない。
民族音楽の場合、歴史的な事件を扱ったものは少なく、ヨーロッパ史の学習にみられるような(例えば百年戦争や十字軍などの)歴史的事件に触れた曲の歌詞も活用しつつ授業を展開する方法は取りにくい。民族音楽では歌詞のついてないものが多く、大意だけでは扱いにくい。音楽をただ流すだけでは教材化として限界がある。
(2)民族音楽の場合はその作品がいつ成立したのかという情報も少なく、また伝統的な音楽の伝授の方法がヨーロッパとは違い、楽譜を伴わないものである場合が多く、時代の中で曲そのものが変化していく可能性も高く、ある時代の社会・文化を反映したものとはならないことが多い。
以上のことから、アジア史に関連する音楽教材はあくまでも現代に残るその地域の社会・文化をイメージさせるためのものにとどまり、歴史授業の展開の中で生徒に考えさせる教材として限界がある。
4.文化を理解する上で活用できる音楽教材と授業における展開方法 |
(1)文化を理解する上で活用できる音楽教材
@東南アジアにおけるバリ島の民族音楽ケチャ
→生徒に理解させたい学習事項は東南アジアの島嶼部におけるインド文化の影響
インドで生まれた叙事詩「ラーマーヤナ」が東南アジアの島嶼部で演じられていることは、インド文化を受容した東南アジアの島嶼部の文化的土壌の歴史的形成を追っていくには効果的
A民族音楽ケチャを活用した授業展開
→導入で東南アジア地域の全体の文化的特徴をおさえる時にこの音楽教材を使ってアウトラインを整理し、その後文化的土壌の歴史的形成を王朝の変遷の中でみるか、もしくは文化的土壌の歴史的形成を王朝の変遷の中でみたあとのまとめの段階で、文化的特徴を整理する際に使うのが効果的(ケチャの様子を伝える映像などがあるとさらに効果的)
(2)カワーリーやアーシュクといった音楽集団や吟遊詩人の音楽
@イスラーム史の学習で出てくるスーフィーの活動について、南アジアではカワーリー、西アジアではアーシュクといった音楽集団や吟遊詩人の音楽を切り口として活用
Aカワーリーに関わりのあるチシュティー教団は12世紀ころのアフガニスタンに登場。活動拠点をその後インドに移し南アジア最大のスーフィー教団に
→聖者サリーム・チシュティーはムガル帝国第三代皇帝アクバルが信奉する人物
Bカワーリーの音楽の授業における活用例
→アクバル帝の時代の政策について触れる授業の際に導入で活用
カワーリーの音楽(例えば「われを師と仰ぐ者は(Man Kunto Maula)」)など使用し、12世紀頃からスーフィーがインドにおいてもその活動を盛んにし、信者を増やし、イスラームを浸透させていった状況を説明
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